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3 双方ボイスチェンジ
「さなえ。さなえさん・・・。さなさん!さな~!」
トラの声で目が覚めた。
「何だよ?」
「メグがヘビオを好きなのは・・・」
「好きなのは?」
「寝技がうまいんだろうな・・・」
「えっ?!」
なんのこっちゃと思ったが、すぐに意味がわかった。寝技ってあのことだ。ニャンニャンだ。
「トラ!なんてこと言うんだ!」
「さなえも・・・、ええい、めんどうくさい!サナと呼んでいいか?」
「さなえと呼びにくいんなら、サナでいい・・・」
ははあ、サシスセソが話しにくいんだ。唇のせいなんだ・・・。
「唇のせいと、わかっとるのか・・・」
「ああ、今、トラの思いがわかった」
「以前、ここで、メグがヘビオの寝技を語ったとき、メグのとろけた目を見たじゃろ。ありゃあ、完全に、寝技の虜ぞ・・・」
「あの目、見たよ。ニャンニャンに溺れたか・・・」
「これ!なんてことを言う!ニャンニャンは仲よしの表現だ。ワシとサナのような仲よしを言うんじゃぞ!」
「ゴメン!表現がマズかったな・・・。
このままだと、ヘビオの快楽に、メグがはまったままになる」
うへっ!はまったままか・・・、理に適ってる・・・。
「アホウ!何を納得しとるんじゃ!」
「つまりだな。母親になることだって有り得る、ってことだよ」
「然らば、そうならぬよう、手助けしようぞ・・・」
パソコンの前で、トラが腕組みして考えこんでる。
トラの姿は猫を超越して猫賢者だ!猫仙人ではない!
今度、スーツとハットと蝶ネクタイを作ってやろう。ワイシャツとパンツも必要だな。靴もだ。ステッキは・・・、傘があるぞ・・・。
「サナ。アホな事を考えるな。ワシには虎縞の毛がある。衣類は必要ない。
さっきから、妙だと思っとった。アプリを通じてサナの考えがパソコンに筒抜けじゃ・・・」
トラがあたしに目配せした。
さっきメグと話したときは、翻訳に機能設定してた。メグの思いは副音声で聞えたけど、あたしの思ってる事はメグに伝わってなかった。
今は翻訳が解除になって、双方ボイスチェンジになってる。これだと双方向がボイスチェンジされるってことか?
だけど、メグのときのような、トラの思いが副音声では聞えないし、表示もされない。思ってる事が直に伝わってくるだけだ。
あたしは、もう一度、翻訳機能設定を見た。
ボイスチェンジ設定には、相手方ボイスチェンジと当方ボイスチェンジ、双方ボイスチェンジがあり、翻訳機能設定は相手方ボイスチェンジに含まれていた。
「トラ。あたしの考えは副音声か?文字表示か?どっちだ?」
「サナの口が開いてないのに、思ってる事が聞えるぞ。
わしのもサナにそう聞えるじゃろう」
言われてみれば、その通りだ。相手の思いを知るには翻訳機能か相手方ボイスチェンジにすればいい。互いの意志疎通は双方ボイスチェンジか・・・。
ボイスチェンジャーアプリをうまく使えば・・・。
あたしはヘビオをスマホに映そうと思った。
「ねえ、トラ。アプリでヘビオを映そう。その映像をメグに見せるんだ!」
「ヘビオをどうやって映すんだ?会う機会がなかろう?
ワシハ、ヘビオなんぞを、サナに会わせたくないぞ・・・」
トラはそう言ったまま考えこんでる。
トラはヘビオを警戒してる。ヘビオは可愛い女に目がない。蛇に睨まれたカエルの如く、あたしがヘビオの餌食になると思って、トラは警戒してるのだ・・・。
「トラは、あたしが可愛いか?トラ。そう思うか?」
「まあな・・・」
「ありがとう。うれしいなあ。それで、トラにとってあたしは何?」
「可愛い娘。わしに飯を作ってくれる、大事な存在じゃ」
「なんだ。ご飯だけの事か・・・」
「そうではないぞ。衣食足りて礼節を知ると言うじゃろ。その上の可愛いじゃ。サナほど可愛い娘はおらぬぞ。ヘビオなんぞに会わせとうはない。
明日、月曜の講義は、朝からじゃろう。それまでに、ヘビオをスマホで撮る方法を考える・・・。
ところで、晩飯の鮭、忘れんでな」
「忘れてないよ。今のうちに焼いとくよ・・・」
あたしはスマホをソファーテーブルに置いたまま、夕飯の鮭を焼くため、カーペットから立った。
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