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「どう、ある?」
隣で瑞穂が催促した。
「3年前の……、ありました」
四葉不動産から3千万円の振り込みがあり、同日、入金誤りの名目で山一の口座に全額支払われていた。単なる入金誤りならば、収支報告書に反映することはない。
「これって……」
美智のスマホを覗き込んだ瑞穂が言った。
「はい。山一常務が会社を辞める原因になったものです。2億3千万ほどの価値のある資材置き場を2億で売り、3千万のバックマージンを受領したのです」
「彼は健康を理由に退職したけど、これが真の理由ということね?」
「はい。会長の恩情で解任を免れたのだと思っていました」
「2人はグルだったというわけね」
美智は話しながら考えた。2人がグルなら、どうして会長は山一を辞めさせたのだろう? 山一はどうして素直に辞めたのだろう? そうして思い出したのは、瑞穂が彼をスパイだと指摘したことだった。退職した山一がモチズリ建築に再就職してスパイになったのではなく、スパイになるために、あえて辞めたのではないか? それも会長と示し合わせて……。
「すっかり騙されました……」
ざわざわする思いを胸に、スマホに眼を落とした。
「……四葉不動産側に自分の名前が残らないように、バックマージンは自分がコントロールできるNOMURA親和会に振り込ませたのですね」
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