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美智は彼女が検討する間を取ってから、念を押すようにゆっくりと告げた。
「ただ、問題が一つあります」
「何かしら?」
「緑中央銀行です。新しいNOMURA建設が高野須を排除した場合、横槍を入れてくるようなことはないでしょうか?」
「健全経営をするのなら、そこに口を出す銀行はありませんよ。もし、猪狩さんが何かを言ってくるようなら、私が対処しましょう」
瑞穂が力強く話すので、美智の胸のつかえがとれた。
「それにしても……」瑞穂が一拍おいて続けた。「……佐久間さんは色々と知っているだけかと思ったら、よく考えてもいるのね。どうして?」
「職場を失いたくないからです」
美智は即答した。瑞穂が首を傾げる。
「自己中心的に聞こえるけれど……、それがあなたの遠慮なのかしら……。資産管理係がモチズリ不動産に移されるという話は?」
「もちろん知っています。正式に発表されていますから……。でも、私が仕事を失ったわけではありません」
「確かに、そうね。私も銀行に対する未練を捨てることにするわ」
瑞穂がきりりと唇を結んだ。
「はい。それがいいと思います」
「それで、これから何をすればいいのかしら?」
「まず、坂下社長の意思を確認します。全てはそれからということで、よろしいでしょうか?」
「そうね……」
美智は、瑞穂の熱い視線を感じた。
「……佐久間さんが坂下さんに賭けるというなら、私はあなたに賭けるわ。これからは同志よ」
瑞穂が右手を差し出す。美智はその手を握り、監査役室を後にした。
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