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「ふははは! 私は、悪い魔王を倒したぞ!」
勇者リカルドは、高々と笑いました。
長い間、人民を苦しめていた魔王サタンゴースト……しかし今、彼の神剣エクスガンバートにより、首をはねられ横たわっています。
「おお、リカルドさま!」
「我々を救ってくださって、ありがとう!」
「あなたこそ、真の勇者だ!」
民衆は、口々に彼を讃えます。そんな彼らの顔を見渡し、リカルドは高らかに宣言しました。
「みんな、よく聞いてくれ! サタンゴーストの恐怖の時代は終わった! これからは、私がこの国を治める!」
こうしてリカルドは、キュリオ国の新しい王様になりました。
今の国は荒れ果て、悪い犯罪者が大勢います。彼らは罪を犯しながらも、たいした罰を受けることなく釈放され、大手を振って町を闊歩しています。そこで、リカルドは国民の前で宣言します。
「これからは、罪を犯した者は容赦なく捕まえる! 捕まえた奴は、どんどん死刑だ! いいか、私の死刑執行は一味違うぞ! 私みずからの手で首をはねてやる! もう一度言うぞ! 悪い奴は、どんどん死刑だ!」
リカルドの言葉に、国民は歓声をあげました。
「いいぞ!」
「犯罪者は、みんな殺せ!」
「我が国も、これで平和になるぞ!」
その声を聞き、リカルドは嬉しそうに頷きました。
「これで、我が国は世界で一番平和になる」
リカルドは、罪人を次々と処刑していきました。極悪な殺人犯や連続強姦魔、さらには強盗団の親分などなど、いずれ劣らぬ極悪非道な者ばかりです。
死刑執行の際、リカルドはまず、彼らを縛り上げて馬に乗せました。その姿のまま、大通りを引き回します。人々は、その様子を沿道で見守ります。
「ざまあみろ!」
「お前みたいな奴は、さっさと死んじまえ!」
「悪いことをしてきた報いだ!」
皆、死刑囚に罵声を浴びせました。普段はおとなしいはずの人も、死刑囚に対しては容赦ありません。いや、むしろ普段は気が弱くおとなしい人の方が、身動き出来ない死刑囚を前にすると、内に秘めた凶暴さを剥きだしにしています。口汚く罵り、さらには石や腐った卵などをぶつけていきます。
「お前みたいな罪人は、死んで償え!」
ふだん気弱な人ほど、下の立場の者には強くなります。まして、相手は罪人です。何のためらいもなく、残酷な衝動をぶつけていきました。
やがて広場に到着すると、リカルド自らが剣を抜きました。
「今から、死刑を執行する。私の死刑執行は、一味違うぞ!」
その時、死刑囚は泣き叫びました。
「助けてくれえ! 死にたくない! 死にたくないよう! お父ちゃん! お母ちゃん! 助けてくれえ!」
泣き叫ぶ死刑囚を、リカルドは冷酷な目で見下ろしました。
「貴様は、幼い娘を強姦し殺した。しかも、三人も……その罪は、死刑に値する」
「違う! 俺はやってないんだ! 本当だ!」
「貴様、この期に及んでまだ嘘をつくのか!? 言い訳は地獄で言え!」
リカルドは、剣を抜きました。次いで、剣を振り下ろします──
死刑囚の首は、ごろんと床に落ちました。
こうして、次々と死刑を執行していくリカルドでしたが……ある日、とんでもない話を耳にしました。今まで死刑になり、首をはねられた者のうちの数人が、冤罪であった可能性が濃厚になったというのです。
「我々の調べによれば、少なくとも五人の死刑囚が無実であったようです。もっと詳しく調べれば、他にも出るかもしれません。どうしますか?」
腹心の部下であるボブの言葉に、リカルドは考えました。無実の者を死刑にするなど、あってはならないことです。
これはつまり、冤罪にさせてしまった者が悪いのだ……ならば、罰するよりほかない。リカルドは、そう考えました。
「ボブ、その五人の死刑囚を取り調べた者を連れてこい」
「は、わかりました」
ボブは、すぐさま動きました。国の検察局に行き、取り調べを担当した検事を連れて来ます。
リカルドは、その検事を睨みました。
「貴様、無実の者を罪人として取り調べたな?」
「えっ? いや、そんなことはしていません!」
検事は、首を横に振り否定します。すると、リカルドの表情が変わりました。
「嘘をつくな! ボブ、この男のやったことを言ってやれ!」
ボブは頷くと、書類を取り出し語ります。
「この男は毎回、容疑者を拷問して自白を引き出していました。その数は千人を超えます。しかし、私の調査によれば、その半分近くが無実でした」
話が終わると同時に、リカルドは凄まじい形相で剣を抜きました。
「無実の人間を死刑にするなど、言語道断! 貴様も死刑だ!」
その後も、リカルドは今までの裁判を徹底的に調査しました。冤罪で死刑になった者を取り調べた検事、さらに死刑判決を降した裁判官を、どんどん死刑にしていったのです。
「国民のみんな! こいつらは無実の人間を死刑にした極悪人だ! だから、この場で処刑するのだ!」
国民の前で宣言し、リカルドは次々と首をはねていきました。
しばらくすると、また別の問題が起きました。
「リカルドさま、大変です。ここ一月ほど、犯罪者が処罰されていません」
報告してきたボブを、リカルドは睨みました。
「なんだと! どういうことだ!」
「どうやら、冤罪を出すのを恐れているようです。検事も裁判官も腰が引けて、徹底的に時間をかけて調べているようです。そのせいで、拘置所には裁判が終わっていない犯罪者で溢れています。このままだと、パンクしてしまうでしょう。どうしますか?」
その問いに、リカルドは腕を組みました。これは、つまり取り調べの遅い検事や、裁判の進行が遅い裁判官が悪い。奴らのせいで、拘置所に犯罪者が溢れているのだ……そこで、すぐに対応策を思いつきました。
「取り調べの遅い検事や、判決を降すのが遅い裁判官は死刑だ!」
早速、リカルドは動きました。腹心の部下であるボブやユージーンたちに命じ、拘置所や裁判の記録を調べさせます。結果、あまりにも仕事の遅い検事や裁判官を捕らえました。
「貴様らの仕事が遅いから、拘置所に犯罪者が溢れているではないか! 全員死刑だ!」
リカルドは、片っ端から死刑にしていきました。さらに、新しい検事や裁判官を自ら任命していきます。決断力があり、仕事が早い者たちを選びました。
この状況に、国民たちの間では不満が高まっていきました。
「リカルドは、厳しすぎる」
「隣町のカーリーなんか、パンひとつ盗んだだけで指をちょん切られたらしい」
「泥棒を三回繰り返せば死刑なんて、ひど過ぎる」
「しかも、検事や裁判官にも厳しすぎる」
「冤罪で死刑らしいぜ」
「犯罪者の取り調べで、時間がかかりすぎても死刑だってよ」
「それはひどい」
「こんなことなら、魔王サタンゴーストの時代の方がよかったよ」
「サタンゴーストは、何でも自由にやらせてくれたからな」
「ちょっとくらいの悪さなら、見逃してくれたし」
国民の不満は、日増しに高まっていきます。
やがて、勇気と力を兼ね備えた勇者ピエールが革命を起こしました。そうなると、大半の国民が彼らの味方をします。もともとリカルドは、不満を恐怖で押さえつけていました。その恐怖は、革命家たちの活躍で消えていきます。そうなると、リカルドを恐れる理由などありません。
革命は成功し、リカルドに仕えていたボブやユージーンらは国外に逃げました。
ピエールはリカルドを捕らえ、国民の前で宣言します。
「皆を苦しめていたリカルドは、今から私の手で処刑する! これで、この国も平和になるだろう!」
その言葉に、リカルドは泣き叫びました。
「いやだあ! 死ぬのはいやだ! 命だけは助けてくれ!」
しかし、ピエールは容赦しません。リカルドから奪い取った神剣エクスガンバートを高々とかざし、一気に振り下ろします。
リカルドの首は、ごろんと転がりました──
「おお、ピエールさま!」
「我々を救ってくださって、ありがとう!」
「あなたこそ、真の勇者だ!」
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