このBEATに乗せて

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新曲リリースが七月に決まっている。 これからレコーディングやリリースイベントまでの間は、また忙しくなる。 舞衣ちゃんと会える時間が減るかも知れないと思うと寂しい気持ちになるけど、音楽は俺の生きがいだ。 仮にもバンドと作曲業で飯を食っている。 手を抜くことなんか出来ない。 次のライブには舞衣ちゃんを招待するつもりでいるから、余計に力が入るんだけど。 スタジオでの出来事もあり、舞衣ちゃんと会ったら意識しすぎてしまうかもしれないけど、昨日の元気のない姿を思い出すと、会って少しでも話がしたいと思ってしまう。 今日は怜くんと一緒じゃないから、コンビニの前で舞衣ちゃんを待つ事にした。 寒い時期が終わり、星が少し霞んで見える。 冬の冴えた空もいいけど、少し白んで明るく見える空は、夏の気配を感じてワクワクするから好きだ。 夜空を見上げながら、あの曲を口ずさむ。 30分くらい経っただろうか… いつも会う時間はとっくに過ぎた。 今日も遅いのか、それとも休みなのかも知れない。 もう少し待つか考えて、やっぱり帰ろうかと思った時、舞衣ちゃんが歩いて来るのが見えた。 「舞衣ちゃん!」 「輝人くん、今日もいつもより遅いから、会わないと思った」 「今日は待ってたっちゃよ」 「えっ、遅いのに、なんかごめんね」 やっぱり少し元気がないような、疲れたような笑顔が気になった。 「昨日元気なかったから、ちょっと気になってたけん」 「あぁ、うん、それはなんでもないよ、大丈夫」 そう言って目を逸らすから、嘘を付いてるってわかる。 「そうなんや 俺で力になれる事なら話聞くけど…俺じゃ頼りにならないっちゃね」 「ごめんね、本当に大丈夫だから」 知り合ってから三か月。 短い時間にいろんな事を話して、お互いを知れた気がしていたけど、こうやって拒絶されると、そう思っていたのは俺の方だけだったんだと思えて悲しくなる。 恋人でもなければ、友達でもないのだから、仕方ないのかも知れないけど… 少しでも近づきたいと思ってしまうのは我儘だろうか…
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