このBEATに乗せて

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「輝人くん、なんか変だよ どうかしたの」 「いや〜、本当にどうかしてるっちゃね、今日もメンバーに情緒不安定とか言われよってね ははは…」 努めて明るく言うことで、自分の行動を誤魔化そうとした。 俺から話そうと言っておきながら、不自然な状況を作ってしまったせいで、普通に話す事さえ出来そうにない。 舞衣ちゃんが心配そうに俺を見つめる。 「輝人くん、私がこの街から引っ越すって言ったら、今みたいに引き留めてくれる?」 「えっ?!」 真っ直ぐ見つめられ、唐突な質問をされ、情報処理能力が追いつかない。 「…例えばの話だよ」 そう言って目を逸らして俯くから、きっと例えばの話じゃないんだろうと感じてしまう。 元気がないのは、きっとこの質問と関係があるんだろう。 「それは寂しいっちゃけど、もし舞衣ちゃんに夢とかあるなら、それは…俺には引き留める権利なんてないし、進みたい方向に進むべきだと思うよ」 なんて言ってあげるのが正解かわからないまま、気持ちとは裏腹な事を言ってしまった事を後悔する。 本当は「引き留める」って言いたかったのに…ただ、その一言が言えない。 友達だったらなんて言えただろう… 彼女だったら…なんて考えてみても、俺たちの関係には、どんな名前が付くのかさえ今はわからない。 「そうだよね、誰かに決めて貰うことじゃないもんね」 そう言った舞衣ちゃんの横顔が、悲しい色をしていることに気付いたけど、理由さえ聞けない今の俺には、元気付ける全はなかった。 「いつもより遅いし、家まで送るよ」 「あっ、ううん、大丈夫だから 信号渡ったらすぐだから」 ただの遠慮なのだろうけど、やっぱり拒否されてしまうと、これ以上前に進めないと思って悲しくなる。 「そっか、じゃあ気を付けてね、舞衣ちゃん」 「うん、輝人くんもね」 信号を渡って行く姿を見送る。 途中振り返って手を振る舞衣ちゃんを、もう一度引き留めたいと思ってしまうけど、「引き留める」と言えなかった俺には、そんな資格も権利もないんだ。
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