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あの日から忙しくて、舞衣ちゃんに会える時間がないままライブ当日を迎えた。
気合いを入れる為に、髪を真っ赤に染め直した。
いつも、ワクワクの方が強くて、あまり緊張しないのに、今日は吐きそうになるくらい緊張している。
ステージに上がり、眩いスポットライトの中に立つ。
俺の繰り出すビートに乗って、全ての音が絡まり合って行く。
ライブが始まってしまえば、思考が何もかもぶっ飛んで、気持ちいいリズムに酔いしれるだけだった。
楽しい!気持ちいい!いつもの感覚。
ラストに新曲を発表する。
みんなの笑顔、歓声、俺がここに立てているのは、ファンの人達が応援してくれるおかげ。
この景色が見たくて、ステージから見つめる光景に酔いしれる。
俺の存在意味を感じられる瞬間だ。
ライブは無事に終わり、楽屋で鳴り止まぬアンコールの声を聞く。
アンコールの声があった時は、もう一度新曲をやると決めていた。
「そろそろ行こう!」
怜くんの合図で再びステージに向かう。
大歓声が鳴り止まぬ中、怜くんがマイクを取る。
更に大きくなる歓声を制す様に、静かに喋り出す。
「今日は、サプライズでもう一曲作って来ました。
この曲はリリース予定はありません。
もしかしたら今夜限りかも知れません。聴いてください」
俺はなにもわからず困惑する。
流星が俺の方を見て、あのアルペジオを奏で始めた。
何故だかわからないまま、俺はドラムを合わせて行く。
怜くんがいつもより切なげな声で、舞衣ちゃんへの想いを代弁してくれるように歌い上げる。
メンバーが俺の背中を押してくれているんだと気付く。
心の中で何度も「ありがとう」を繰り返した。
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