このBEATに乗せて

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「輝人くん顔がゴリラみたいになってる〜!」 と、わしゃわしゃ俺の頭を掻き回して、くすぐって来る。 「あー、ちょっ、なにしよぉーとー 俺は犬やないけん!」 「犬やない!ゴリラゆうたやろー」 ケタケタ笑って楽しそうに俺を弄りまくる怜くん。 犬や弟みたいな扱いはいつもの事。 でも、男同士が戯れあってる姿は、あまり人にお見せ出来るものじゃない。 こんなところを彼女に見られたら最悪だ。 そんな事を思いながらも、怜くんとはいつもこんな感じが楽しかったりもする。 いつも通り二人で戯れあっていたら、俺の会いたかった彼女が前から歩いてき来た。 今日は会えないと思っていたから、会えたのが嬉しい筈なのに、これは最悪のタイミング。 「はぁ」また溜息が出る。 彼女は立ち止まり戸惑った表情。 そりゃ、そうだよね… 「おー! 舞衣ちゃんやん」 俺の首に腕を回したまま、お構いなしに怜くんが声を掛ける。 「こっ、こんばん…は いつも仲良いですね…」 こんな恥ずかしい場面を見られたのに、目を泳がせてちょっと困っている彼女の事を可愛いと思ってしまう。 「舞衣ちゃん、今日はちょっと遅かったんやね」 「うん、ちょっといろいろあって…」 「そっか、お疲れ様」 「二人はスタジオ帰り?」 怜くんが舞衣ちゃんと普通の会話をしているだけで嫉妬してしまう。 「そ!今シーズン初アイス食べよって、美味かったっちゃよ」 俺の方を見て欲しくて、すかさず会話に割って入る子供っぽい俺。 「輝人、俺先に帰っとくわ じゃね舞衣ちゃん」 好きになってしまいそうな程、素敵な笑顔を残して去って行く怜くん。 俺の肩をポンポンと叩いた手が、頑張れよと言っているリズムに聞こえたけど、それは俺の願望で、思い過ごしだろう。 だって、怜くんには彼女を作ることは禁止されているから。 それもそうだ。 仮にも俺たちは、売り出し中のバンドマンなんだから。 でも、いつもこうやって、さりげなく気を使ってくれるところ、やっぱり怜くんは大人でかっこいいんだよね。
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