このBEATに乗せて

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昨日は遅くまでというか、朝方まで出来上がった新曲について二人で話し合っていた。 今日は自由練習日。 怜くんが本格的に詩を書くモードに入ったので、邪魔しちゃいけないと思い、気分転換にスタジオに向かう事にした。 家から歩いて20分程の場所にあるスタジオは、倉庫を改装したそれほど広くない空間。 事務所が持っているので、いつでも使う事が出来る。 ドラムはここでしか練習出来ないから、殆どの時間をスタジオで過ごす日が多い。 外に出て、パーカーを着ている事を後悔する。 最近昼間に外に出ていなかったせいか、こんなに暖かくなっている事にさえ気付かなかった。 桜の季節はとっくに終わり、初夏を思わせる木々の緑と、もう柔らかくない日差しに、目が眩む程だった。 たまには日の光を浴びないとな…と不健康な生活を反省する。 ちょっぴり遠回りして、ゆっくり歩く事にした。 スタジオに他のメンバーは誰も来ていなかった。 ピアノの前に座り、あの曲を弾く。 俺の中の想いを吐き出すように、奏でるメロディ。 俺は詩は書かないけど、自然と溢れる気持ちを、でたらめに曲に乗せて歌う。 ガチャ 「輝人、それ新曲?」 腕を組み、入り口の壁にもたれ掛かる流星がそこにいた。 ヘッドホンをして曲に没頭てしていたせいで、いつ入って来たのかさえ気付かなかった。 「あっ、いや…」 「違うんや? やけに力入ってたから、てっきりそうやと思った いい曲やね」 どこから聴いていたかわからないけど、でたらめの歌詞を歌っていた事が、舞衣ちゃんへの想いを知られたようで恥ずかしくなった。 「これはsnowdropの曲やないけん」 恥ずかしさを誤魔化したくて、少し素っ気ない態度を取ってしまう。 「あんまりいいメロディやったから、俺らでやりたいなって思ったけど違うんやな、残念」 「これは俺の曲やけん、誰にもあげられん」 気まずい空気が流れる。 「ふーん、なんか思い入れありそうやね、まぁいいけど」 流星がそれ以上なにか聞いて来る事はなかったけど、気まずい雰囲気のまま、お互い別々に練習をして、重たい時間だけが流れた。
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