<3・欲情、足掻ク>

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「……過去の、ことは。私にとって、汚点でしか、ございませぬ。思い出したくも、ないのです」  それでも今日の帝は、普段と比べれば格段に優しい方である。殆ど藍蘭に対して、快楽ばかりを与えているから尚更だ。本人の加虐心が満たされぬ時や、どうしても不機嫌が募った時は、鞭を取り出して打たれることさえあるのである。傷を負わされれば、痛みで夜眠るのさえも支障が出ることになる。そうなる前に、帝を満足させてしまうのが吉――此処に来て既に嫌というほど学んだことであった。 「私が考えていたのは、紅帝様のこと、でございます。正確には……紅帝様の、ご趣味のことです」 「ほう?私の趣味とな」 「鏡で、己の浅ましい姿を見せ付けられるのが……恥ずかしゅうてなりませぬ。このような醜い姿を何故紅帝様は好まれるのか、私などよりも美しい女や男はいくらでもいるというのに何故、と。そう、考えておりました。私は己が……帝の寵愛を受けるに足る存在だとは、とても思えないのです」  嘘は、言っていない。実際はここに“てめぇの悪趣味に付き合ってられるか馬鹿野郎”という本音が加わるというだけで。 「ふん、相変わらずそなたは、自分を肯定できぬのだな。この国の最高権力者たる私にこれほどまでに愛されておきながら。……しかし、その奢らぬところもまた、悪くない」 「あっ、いや、そんな……いきなり、三本も」 「これほどまでに蜜に満ちておるのだ、簡単に入るであろう?私も、前戯はそろそろ切り上げて、そなたと一つになりたいのだ……察するがよい」  鼻息も荒く、好き勝手に藍蘭の蜜壷を荒らした男は。やがて、自らの欲望をぴたりと藍蘭の秘めたる場所にあてがった。  ああ、本当に嫌になる。こんなにも心は拒絶しているのに、その場所はこれから先にある快楽を思い出してだらだらと涎を垂れこぼしているのだ。空虚な欠落を埋めて欲しい、欲望を満たして欲しい、その大きなものをめいっぱい頬張って食べ尽くしてしまいたい――と。そして。 ――何故、私はこうなのだ。わかっているのに。  腹の中で、女の象徴が蠢いてやまないのである。ほんの数月前に、死ぬほど痛い想いをして子を産んだばかりだというのに。それで、もう二度とややを孕むなどごめんだと確かに思ったはずだというのに。  女の本能は訴える。そこに種が欲しいのだと。子を産み続けることこそ種の保存のための、女の本分であると思い知れと。 ――お前は運命の相手ではない。私の真に愛すべき相手は、もっと別の場所にいるはずだと知っているのに。
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