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<4・二人、巡ル>
香鈴の記憶にある“クシル・フレイヤ”という人は。藍色がかった黒髪の、とても美しい青年であった。女性的というのとは少し違うが、中性的であり浮世離れしてもあり、恐らく通りがかった人の十人中八人くらいは振り返るであろう見目であったと思っている。多少自分の贔屓目が入っていることは否定しないが。
どこの世界の“クシル”も共通しているのは、基本的に誰も彼も極めて似通った容姿をしているということ。クシルの面影がなかったことが一度もないのだ。ついでに言えば、体格もあまりがっしりしていた試しがないように思う。むしろ、華奢ですらりと背が高いことが多い。男性であっても女性であっても同様に、だ。
そして、どちらであった場合も――惨たらしい末路を迎えることが殆どなのである。陵辱されて殺される、パターンが本当に多いのだ、悲しいことに。それを苦にして自殺したことも何度かはあったはずだ。そういう恐ろしい悪意を引き寄せてしまうほど、その美貌は蠱惑的なのである。
ゆえに。今回の彼は多分后のうちの誰かに生まれ変わっているのだろうな、というアタリはつけていた香鈴だった。そして、自分は極めてその近い場所に配属になるのだろうということも。この運命を形作り、自分達に強要している何者かは――どうにも、香鈴=カレンにクシルの死に様を見せつけたくてならないらしい。九割以上の確率で、クシルは自分の目の前で死んでいくことになるのだから。
――だから、自分がお仕えする后様が、我が主クシルである可能性は高いとは思っていたけれど……。
そして、今。香鈴は鳴沙に連れて来られた部屋で――唖然とすることになるのである。
「藍蘭様、こちらが新入りの縁香鈴でございます。本日から、藍蘭様の身の回りのお世話を担当させていただきますわ。……香鈴」
「は、はい。藍蘭様、若輩者ではございますが、何卒よろしくお願い致します」
どうにか鳴沙に睨まれる前に、まともな挨拶ができた自分を心底褒めたいと思う。だってそうだろう。
「……ほう、お前が新入りか。面を上げよ」
流れるような、艶やかな黒髪。藍色の切れ尾の瞳、真っ白な肌。
髪型と性別こそ違えど――その姿は、香鈴が知るクシルと瓜二つであったのだから。むしろ、生き別れの双子の兄妹だと言われても納得がいくほどである。
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