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――今まで、色々な世界をめぐってきたけど……ま、まさかここまでとは。ここまで似ている人は、初めてだ……!
心臓が煩いほどに鳴っている。こんなに早くに出会えたことを幸運と思うべきか、あるいはその分クシル――藍蘭の寿命が縮まってしまったことを嘆きべきなのか。
自分達の出会いはつまり、別れへのカウントダウンが始まったことに他ならない。自分と出会って、数年以内にクシルは死ぬ、これはいつもの流れならば確定事項だ。彼はどんな生い立ち、性別に生まれても――成人できたことが、一度もないのだから。ただ。
――なんて、美しい……。
クシルも美しかったが、それが女性ともなれば――まさに、その美は妖艶の一言に尽きる。恐らくは、少し前まで紅帝の夜伽をしていたのだろう。頬はバラ色に染まり、やや上気して眼が憂いを含んでいる。豪奢な青い着物は、胸元が大きく開いたデザインだった。つまり、女性として羨ましいばかりの豊満な胸の谷間が、ばっちりと覗いているということである。
これはちょっと目に毒すぎる、と香鈴は頬が熱くなった。元々の香鈴=カレンの性別は現在と同じ女性であるが、転生する世界によっては男性として生まれることも少なくない。そして、クシルの性別も男性だったり女性だったりとまちまちである。結果、“相手がクシルならば男性でも女性でも問題ない”になっている今の香鈴がしっかり出来上がっているのだった。
要するに。
両刀なのである、香鈴は。その横文字を、果たしてこの世界の言葉でどう表現したらいいのかはわからないけれども。
――……触りたい。
あの、餅のような柔らかな胸、甘そうなうなじ、とろけそうな瞳。これは、紅帝が寵愛してしまうのも分からないではない。――転生しているとはいえ、この世界では初対面であろう相手に。このような欲情を抱いてしまうなど、本来恥ずべきことだとわかっているけれども。
「なるほど、あの紅帝様が即決するのもうなずける。美しい娘だ」
そして藍蘭は。そんな香鈴の気持ちなど全く気付かぬ様子で、にっこりと微笑んでそんなことを言うものだから。香鈴は思わず、顔から湯気が出てしまいそうになるのである。
「そ、そ、そのようなことは、は、は……!あ、貴女様のようなお美しい方にそのようなことをおっしゃられるなど光栄すぎましてその」
ダメだこれ。香鈴は緊張であわあわと叫びながら思った。アガリすぎて完全に不審人物である。鳴沙がこちらを苦い目で見つめているのがわかった。こんなの、印象が悪いに決まっている。何故出会って数秒で、これからお仕えする高貴な方を相手に粗相をしなければならないのか。なんとか立て直さねば、と思った次の瞬間。
「何をそんなに固くなる必要がある。これから私達は“友”となるというのに」
「へ?」
予想よりも強い力で、思い切り抱き寄せられ――背中に手を回された。そして、ポンポンと幼子をあやすように叩かれる。暖かい手、そして――何かの花の蜜のような、甘くてかぐわしい香り。多幸感に包まれ、段々と頭がぼんやりしてきてしまう香鈴。
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