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<5・友人、成ル>
お付きの女官の仕事は、主に支えている后の世話。着替えのお世話に、風呂のお世話。部屋の掃除や、后の希望をある程度聞いたり、外部との取り次ぎを行うのも仕事となっている。本来ならば、一人でこなせる仕事量ではない――はずなのだが。
何故藍蘭の場合は、女官一人で事足りるのか。簡単なこと、彼女は身の回りの世話の大半を自らでこなすことができたからである。確かに風呂に入れたり着付けを手伝ったりは女官の仕事だが、本人が必要ないと言えばその限りではない。ゆえに専ら、香鈴の仕事は日々の報告書を上げることと食事などの必要なものを運ぶこと、藍蘭の話し相手になることがメインとなっていた。はっきり言って、こんな楽な仕事でお給金をもらってしまっていいものか、と思うほどである。
「女官の部屋と私の部屋は、御簾で仕切られているだけだからな。こちらの部屋に入るのに、いちいち私の許可を取ったりはしなくていいそ 。いかんせん、ぼーっとしていて話を聞いてない時が多くてな。何度も手間をかけさせるのはしのびない」
最初に見た上品で麗しい印象と異なり、実際の藍蘭はむしろ男らしい――悪い言い方をすればガサツではしたないところもある人物だった。基本的に自分のことは全部自分でやろうと頑張るし、香鈴との間に溝を作りたがらないのは好感が持てるのだが――いかんせん、根本的に不器用なのである。
その最たるところが、部屋の掃除だった。彼女は自分でやると言い張ったが、試しに任せてみたところ彼女が頑張れば頑張るほど部屋が散らかるのである。特に、藍蘭は本が好きで、大量の本を抱え込んでいるのが問題なのだ。整頓しようと思い立って、気づけば本の山に埋もれて読書に没頭しているのである。――ぼーっとしていて気づかないことがある、とうのはつまり、読書に集中しすぎると何もわからなくなる時がある、という意味であったのだろう。
「いやはや、流石だな香鈴は!一刻も待たずして部屋がこんなに綺麗になった!本棚の裏なんて、全然掃除できてなかったものなあ……!」
ゆえに。香鈴が配属された最初の仕事は、藍蘭の部屋の大掃除をすることであった(正確には、彼女に掃除を任せようとした結果散らかった部屋を片付けるところから始まっていたわけだが)。
一刻、というのはどうやら藍蘭が前にいた世界の“一時間”と大体同じくらいの時間であるらしい。時刻の呼び方は世界によって違うのに、基準はどこもさして変わらないというのが面白いところだった。お陰で何度も異世界転移をくりかえしても、混乱は少なくて済んでいる。惑星の公転が違うのか、“一年”の長さなどが異なるケースは何度かあったが。
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