<5・友人、成ル>

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「しかし、良かったのか?私はずっとベッドで本を読んでいただけだったぞ。全く手伝ってないのに」 「いえ!いいんです、今度からお掃除は全部私がやるので!藍蘭様はそこで大人しくしていてくだされば充分ですので!」 「それ、しれっと私は邪魔だって言ってないか?言ってるよな?」  そんなに邪魔かぁ、としおしおとする藍蘭はまるで少年のように無邪気である。はいその通りです邪魔です、とは言えない香鈴は苦笑いで誤魔化すしかない。実際藍蘭に掃除をやらせると、仕事がいつまで経っても終わらないのは明白なのだから。 ――なーんでこういうとこまでクシルだった時と同じかなぁ、この人。  クシルの生まれ変わりだからといっても、得手不得手がいつも同じだとは限らない。大抵天然ボケを発揮するのはお約束だが、掃除が得意な人格として生まれているケースもないわけではないのだ。しかし。  この藍蘭はクシルと同じだった。頭もキレるし身体能力も高い、非常に人望もあるというのに――特定の領域が、壊滅的に苦手なのである。不衛生というわけではない。本が好きすぎてすぐその山に埋もれて、他のことが全部疎かになってしまうのである。  似ているところに気づけば気づくほど、香鈴の胸は鈍い痛みを覚えるのだった。何故なら藍蘭は、后として此処にいる。既にその髪も、肌も、唇も、声も――すべてがこの国の頂点たる紅帝のもの。これほど側にいるのに、香鈴などに手が届く存在ではないからだ。 「思ったよりも掃除が早く終わったようだし、この後の昼食までが随分暇よな。香鈴は、何か用事があるか?書かなければならない書類や家事はまだあると聴くが」 「いえ、日報は夜に書くものですし……家事といっても調理等は私の仕事の範疇ではないですから。お洗濯も夜ですし、今のところは特に用はないですけれど」 「そうか!」  藍蘭はベッドの上で胡座をかいて座ると、にこにこしながら香鈴を側に招き寄せた。そして。 「じゃあ時間まで君と話がしたいぞ。これから長らく、友として過ごすのだ。少しでも早く此処に慣れて欲しいし、私も君のことが知りたいな!」 「さ、左様でございますか」  すぐ隣に、ずっと探し求めた主君がいる。生涯唯一愛すると決めた人がいる。その花のような甘い香りに包まれ、直視するだけで目眩が思想なほどの美貌に見つめられるのは――はっきり言って心臓に悪かった。持病があったら倒れていたかもしれない、などと思うほどに。 「で、でしたら、是非お伺いしたいことがあるのですけど……」  ドギマギしながら、香鈴はどうにか尋ねる。今の自分は、不審者になっていないだろうか。頬は染まっていないか。おかしな人とは思われていないだろうか、などと気にしながら。
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