<5・友人、成ル>

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「藍蘭様は、小説をお書きになるのでしょうか」 「うえっ!?」 「あ、いえその……机の下からたくさんの原稿が発見されましたので。あれらは全て、藍蘭様がお書きになったものなのか、と……」  ちらりと藍蘭の顔を見てみれば――彼女は金魚のように口をパクパクさせて、湯気が出そうなほどに顔を赤く染め上げていた。美貌のお后様とは思えぬ、キャラ崩壊もかくやとうほどの慌てぶりである。 「あ、あ、あ、あれは、そ、その……」  うわぁぁぁ!と彼女は恥ずかしさから思いきり寝具に突っ伏してしまった。そして子供のようにバタバタと足を跳ねさせる。 「上手に隠していたつもりだったのに!何故に見つかる!」 「いえ、思いきり箱から飛び出してましたけど。中に詰め込みすぎですよ、あれでは溢れます」 「うわぁぁぁ本当か!本当なのか!恥ずかしすぎて死にそう……うううう!」  完全に、黒歴史が友人に見つかってしまった子供の反応である。不謹慎にも“やばい可愛い”と思ってしまう香鈴だった。なんだろう、この身分の差も吹っ飛ばすほどの親近感は。一見すると完璧に見える美しいこの人が、実際は穴ぼこだらけであると知ったギャップもあるのだろうが。 「……わ、笑うなよ?分かっているんだ、女子が文筆など似合わぬことをしていると……!印刷技術が広間って以来、世に多くの書物が出回ったが……しかし作家と呼ばれる者は男子ばかりだ。本そのものが、女子が触れるなど烏滸がましいと言われていることも知っている。私は后の立場ゆえの我が儘でたくさんの本を買わせて貰っているが、それも世間的にはあまり良い顔をされないものであるしな……!」  ちなみに、この世界は科学の進歩が大幅に遅れたものとなっている。変わりに一部の特別な者たちが扱う“秘術”が磨かれており、その魔法にも似た力が科学の穴埋めをしているらしかった。占いから、新聞や本を作る技術まで。秘術を扱える者が、一冊の原本を複製するなりなんなりして、世に大量生産し送り出しているということらしい。  残念ながら、秘術士はこの国でもほんの一握り、生まれつきの才能とされている。当然、ただの田舎貴族であった香鈴はもちろん、藍蘭にもその力はないようだった。  なお、香鈴は一番最初の世界では、竜騎士として魔法を数多く取り扱っていたが。残念ながら転生すると、元の世界の技術は大半が受け継ぐことができないのである。知識としては知っていても、発動しないことが多い。具体的に言えば“魔法が存在しない世界では魔法が使えない”といった具合である。恐らく世界そのものが、バランスブレイカーの発生を防いでいるのだろう。そのあたりのことは、今までの経験に照らし合わせて想像するしかないのだが。
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