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『人の命は皆同じ。命の重さに、軽い安いがあるのはおかしなことだろう?何故生まれた地位だけで人生の全てを決められなればならぬのか。私は、誰もが平等に、自由に生きることのできる世界が欲しいのだ』
だが、平和な時代は長くは続かなかった。カレンが十七歳、クシルが十九歳になる年――悲劇が起こったのである。王都外れの森に、冷酷無比な魔女が住み着き、若くて美しい青年ばかりを浚っては、次々慰みものにしてその肉を食らうようになったからだ。王都からも騎士団が派遣され討伐に乗り出したが、魔女の力は圧倒的だった。魔女討伐に向かった者は誰ひとり、生きて帰る事はなかったのである。
魔女は言った。自分は異世界から来た者であると。
今の私が最も欲するのは、お前達の若く美しい王だ、と。王を差し出すというのなら私はこの世界を去り、もう二度とこの地では殺戮をしないと誓ってやろう――と。
それを聞いたクシルに、迷いはなかった。自分が犠牲になればこの国を救えるのだと知り、躊躇なく水からが生贄になる道を選んだのである。当然、カレンも騎士団の仲間達も、そして民も皆が止めた。自分達を導き続けてくれた偉大な王が、このように若くしてその命を散らせていいものか。彼がいなくなったらこの国はどうなってしまうのか。皆が泣き叫び、どのような悲劇があろうとも王の存命を望んだのである。しかし。
『お前達の気持ちは嬉しい。……しかしな。民を導ける有能なリーダーは他にいても……魔女の眼鏡に叶った生贄は、私しかいないのだ。誰にも代わらせることなどできぬ、けして。私が行けば、皆が救われる。そうすればいかな責め苦を受けてこの命が絶えたとしても……私の魂は未来永劫生き続けることになるのだ』
クシルの意思は、堅かった。
『この国を、未来を頼むぞ……カレン。お前達のように心優しく、忠義に満ちた部下を持てたこと……私は心より幸福に思う』
そしてクシルは――死んだ。彼の、無残に陵辱され、両手両足を失い内臓を喰われた骸を見た時。カレンの胸に沸き起こったのは、途方もない憎悪の念である。
クシルが、自分の後釜になって欲しいとカレンに望んだことには気づいていた。しかし彼のいない世界で、彼を嬲り殺しにした魔女を放置しておくなど、どうしてもカレンの心が許さなかったのである。
カレンはひとり魔女の居城に討ち入り――そして、果てた。
無残で悲しい自分達の物語は、そこで終幕したはずであったのである。
だが、この話には続きがあった。無念さを呪いながら死んでいったカレンは、“日本”という国の少女に生まれ変わっていたのだから。しかも、前世の記憶を引き継いだ上で、だ。
――そして、その世界で私はクシルの生まれ変わりの少年と出会い……再び彼を、失った。
地獄の先に待つものは、地獄でしかなかった。カレンは死んで生まれ変わり、その生まれ変わった世界でもまたクシルを失って死に、そしてまた新たな世界に転生する。今“香鈴”としてこの紅の国生まれたカレンは。そうやって、恐ろしい地獄の輪廻転生を繰り返した果てにこの世界に流れ着いたのである。
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