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「……さま、魔王様!」
誰かの声で、目が覚めた。
「魔王様! あぁ、良かった……」
目の前に広がっているのは……業火に包まれる城だった。
感激のあまりか、目に薄っすら涙を浮かべて自分の顔を覗き込んでいるのは、あの兵士だった。天井が落ちる直前、ヴィオレットを突き飛ばしてそれを避けたのだ。
……まさか、運命が変わったというのか?
「やった……やったぞ! はは! お前は最高の兵士だ! 名は何という?」
「はっ、私めは、ゲルプと申します。魔王様、助けて頂き誠に感激の至り。このご恩は一生忘れません」
深々と頭を下げるゲルプに、ヴィオレットはその肩を掴んで言った。
「私もだ! お前に助けらけられた事は一生忘れない!」
「何をおっしゃいます。天下の魔王様ともあろうお方が……」
不思議そうに首を傾げるゲルプに、ヴィオレットは首を激しく横に振る。ゲルプが尚もきょとんとしていると、ヴィオレットはぽつりぽつりと、今までの経緯を話した。何度も死に、何度も勇者と戦い、そしてまた何度も死んでいる事を。自分を助けてくれた彼には、そんな弱々しい言葉も聞いて貰える気がしていた。
ゲルプは全てを聞き終えると、じっと考え、こう言った。
「……恐らく、魔王様がこの城から出る前に、痛みや苦しみを伴って死ぬように仕向けられているのでしょう。ですから、城から出ようとするのは控えた方が良いかも知れません」
だったらどうしろと! と声を荒げると、ゲルプはこんな提案をした。
「私が先にこの城から出ます。そしたら私がタイムマシンを開発して、この時間に戻って魔王様がこの城から無事に出る方法を必ず此処へ持ってきます」
「タイムマシンだと……? 馬鹿な事を。私でも作れなかったものを」
ヴィオレットは時間さえも支配しようと、タイムマシンの研究にも勤しんでいた。その成果が出なかったのも残念でならない。
するとゲルプは、不敵ににやっと笑ってこう言った。
「魔王様はきっとお忘れでしょうが、私は魔王様のタイムマシン研究の開発部に所属されていたんですよ」
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