スズランの奇術師

2/3
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
このごろのおばさんは いつも不機嫌。 花屋をやってた頃は、 いつもニコニコおばさんだったのに 病気になって 花屋をやめちゃった。 それ以来、ずっと不機嫌。 おばさんが昔、 花屋をやっていた店の向かいには 広場があって いつも子供たちの声や 大道芸人や、歌うたいの声で にぎやかだ。 そのにぎやかな声を聴くと おばさんは、いつも不機嫌。 「うるさーい」て叫びたくなる。 だから本当は 広場なんか通りたくないんだけど おばさんの家は もと花屋と同じ場所にあるんだから どこへ行くにも通らないわけにはいかない。 おばさんはパンを買いに出かけて 帰ってきたところ。 おばさんの前を 派手な服の奇術師が大股で歩いてる。 その派手な服も、 おばさんには不愉快でしょうがない。 そのとき奇術師が サテンの大きな黄色いハンカチを落とした。 「ちょっとあんた」 不機嫌なおばさんは、 そのハンカチを拾ってあげた。 「おお。ありがとう」 奇術師はにっこり笑って、 おばさんからハンカチを受け取る代わりに ハンカチを持ったおばさんの手をつかみ その手にサッとハンカチをかけた。 おばさんがびっくりしている隙に、 ぱっとそのハンカチをとって、 まるめて自分のポケットに入れたんだ。 するとおばさんの手には、 小さなスズランの花束が残ってた。 もっと驚くおばさんに 奇術師はにっこり笑って 「ありがとう、マダム」 と去ってしまった。 おばさんはそのとき、 何年ぶりかに、 ちょっと微笑んだ。 おばさんは、もちろん知っていた。 スズランの花言葉は「再び幸せが訪れる」 それ以来、おばさんは、 ちょっとずつ笑顔を取り戻し始めた。 広場の大道芸や歌を また楽しめるようになっていったし、 広場で子供たちが騒ぐのを ゆったりと微笑んで のどかな気分で眺めるようになっていけた。 そしたら子供たちも微笑んで 病気のおばさんを 助けてくれるようになったんだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!