第ニ話

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月の光が夜を照らす中、ジレは一人、森を歩いていた。 バキパキと枝の割れる音が、革靴の軽快な音をかき消す。 くんくんと鼻を効かせ、ジレは人間を捜した。 「こっちか。」 人間を驚かすことが趣味な訳ではない。 だけど他にすることがない。 毎年毎年、人間を怯えさせてハロウィンらしいことをしても、心が満たされる訳でもない。 だけど他にすることがない。 ジレはただ、人間を捜した。 しばらく歩いて行くと、ジレはあるものを見つけた。 「…屋敷か。」 デカイな、とジレは思った。 「複数の人間のにおいがする…。」 屋敷の玄関まで来ると、彼はすぐに踵を返した。 そのまま入って驚かせても、面白みがない。 せっかく驚かすのだから、多少の面白さは欲しい。 ジレは屋敷の横に回り、視線を上げた。 「あそこからも人間のにおいがする。」 ジレの瞳には、屋敷の最上階…角部屋にあたる部分が映っていた。 「バルコニーがあるな。…あの距離ならこれを使う必要もないか。」 マントを見やりながらそう言うと、ジレはタンッと地面を蹴った。 跳躍した彼の体が宙に浮かぶ。 マントはただ、なびくだけだった。 音を立てずに、彼はバルコニーに着地した。 そして、静けさの中の激しさを演出するため、勢いよく窓を蹴破る。 部屋は、開け放たれた。 「きゃ…!」 やはり女のにおいだったか、とジレは自分の鼻の良さが素直に嬉しかった。 「ハッピーハロウィン、女。」 女はベッドから起き上がる。 天蓋のカーテンが邪魔をして、ジレから女の顔が見えなかった。 「え、あ、ハッピーハロウィン。びっくりした。こんな時間に何か用?どなた?」 ジレは怪訝に思う。 「……?窓から入ったんだぞ?少しは驚けよ。」 「窓から?…確かに風が入ってるような。じゃあ、あなたは泥棒さん?」 女のその態度に、ジレの怪訝は強くなる。 苛立ちを覚え、ジレは語気を強める。 「…もう一度言う。俺は窓から入ったんだ。」 「あ!そうね、ここって高くて大きいんだものね。凄い!頑張って登ったんだね泥棒さん!」 人間はこうも会話が通じないものなのか。 まともに人間と会話したことがないジレにとって、これが普通なのか異常なのかわからなかった。 「もっと驚けよ。」 「あら…ごめんなさい。人と話せることが嬉しくて、つい。」 人、か。 「泥棒さんは何を盗みに来たの?」 コツコツ、と足音を立て、ジレは女に近づいていく。 ジレの姿は、はたから見れば長髪の若い、人間の青年に見えるだろう。 顔も、人間として見ても整っている方である。 だが、彼は妖怪だ。 「泥棒さん?」 「…これを見ても。」 ジレはマントを後ろに翻し、両の腕でカーテンを開けた。 「これを見ても驚かないって言うのか⁉︎」
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