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マックでさっきから女子高生グループが喋っていた。
「アイツまたヤッたんだよ!もういい加減にしろって感じぃ!いくら人気アイドルだからって女食いすぎだよ!」
「でも、アイツやっぱオーラあるじゃん!しかも女に優しいし、女だったらみんなアイツに口説かれたらそのままヤっちゃうでしょ!で、アンタさ……」
と、女子高生二人はもう一人の目立たない、いかにも大人しそうな女の子を見て言った。
「アンタの好きなレインボロッカス……?にはそういう話ないわけ?アイドルと付き合ったとか、セクシー女優といたしちゃったとか」
大人しそうな女の子は友達の話のあまりの醜悪さに耳を塞いでこう叫んだ。
「そんなことあるわけないじゃない!Rain dropsはアイドルじゃなくてロックバンドなのよ!あの人達は、特に照山君は今でも純粋な少年の心で女なんかに脇目も振らず音楽に命をかけてるの!アンタ達の薄汚いアイドルなんかと一緒にしないで!」
「うわぁ!キモい!キモすぎぃ!もしかしてそのレインボロッカスって全員童貞なの?あの人達けっこうオッサンでしょ!」
女の子はもうたまらなかった。こんな汚れた人間にロックをバカにされるなんて!と激怒し、許せない!アンタ達とはもう絶交よ!と言い放って席を立ちそのまま店を出ていった。
その同じ時刻にRain dropsのメンバーは全員事務所に集められ、さっきからマネージャーの説教を受けていた。ベースの草生が事もあろうに風俗に通っていた事がバレたからである。
「バカヤロー!お前らは自分が何やってるのかわかってるのか!ロックやってるんだろ!なのになんで楽器放り出して風俗なんかいってるんだ!これを知ったらファンが泣くぞ!私たちは純粋な少年の気持ちでロックやってるRain dropsが好きなんであって、風俗なんか行ってる汚れた人間がやってる音楽なんか聴きたくないって!まぁ、今回は風俗嬢がお前らを知らなかったから助かったけど、こんな事がマスコミに知れわたったらバンドの未来は無くなっちまうんだぞ!」
「だけどさ!」
と、草生はマネージャーに反論をした。
「俺たち、この事務所入るときに男女交際禁止って誓約書にサインしてるんだぜ!俺なんかそのために付き合ってる子別れたんだぜ!音楽のためならそんなくだらんもの捨ててしまえ!とかアンタに言われてさ!だけどこの溜まったものをどうやったら出したらいいんだよ!風俗行くしかないじゃないか!なあ、みんなわかるだろ?」
草生はメンバーに同意を求めたが、メンバーが無反応なのでがっかりした。
マネージャーは草生の反論を呆れたような顔をして聞いていた。そして草生の反論が終わってしばらくしてから、さとすようにこう言った。
「これは、草生だけじゃなくてお前ら全員に言っておく。お前らのロックへの思いは性欲に負けるほど弱っちいものなのか?本気でロックをやりたいなら性欲なんか切り捨てろよ!少年の心でロックをやり続けろよ!それができないぐらいだったらロックなんてやめちまえ!」
やっとマネージャーから開放されたRain dropsのメンバーたちは事務所から出たあとも連れ立って歩いていたが、みんなずっと黙っていた。マネージャーの言葉に納得の行かないものを感じた草生「なあ、みんな」とメンバーに呼びかけて言った。
「お前らなんでさっきだれも俺の味方してくれなかったんだよ!おれ別に間違ったこといってねえだろ!俺たちはロックのためになにかも犠牲にしなきゃいけないのかよ!なあ、照山!お前には俺の言ってることわかるだろ!お前、あの女優と仲良かったけど、あのマネージャーに仲を引き裂かれたじゃねえか!」
照山はしばらく考え込んだあとでこういった。
「いや、俺はあのマネージャーの言ってることは間違ってないと思う。確かに俺は彼女が好きだったし、彼女も俺が好きだった。彼女は早く俺と結ばれたい言ってた。だけど俺はマネージャーに言われたんだ。女を選ぶんならいっそロックなんて捨てちまえ!女と乳繰り合ってるような堕落したやつのロックなんて誰も聞きゃしねえ!って。俺はマネージャーの言う通り女を捨てて残りの人生をすべてロックに捧げることに決めたんだ。その選択を俺は間違っていたとは思わない!」
照山の堂々たる発言にメンバー一同黙ってしまった。草生などは自分の発言の浅はかさにすっかり反省までしている。メンバーは照山を尊敬の眼差しで見つめた。それからしばらくみんなで歩き、やがて照山はコンビニで買物をすると言ってそこでメンバーと別れた。
コーヒーを買うためにコンビニに入った照山であったが、歩きながら雑誌コーナーをなんとなく眺めていると雑誌の表紙に彼のよくしっている女性の名前が載っていることに気づき足を止めた。心臓がだんだん高まってくる。忘れようったって忘れられない。テレビ番組で共演したのがきっかけだった。その時彼女から自分のバンドのデビュー当時からのファンだと聞かされた。それからLINEやメールで数え切れないほどのやり取りをし、彼女とキスさえしていないのに、何もかもをわかり合っている恋人のようだった。だけど彼女との交際をマネージャーに大反対され、彼はLINEにこう書いて彼女に別れを告げた。
『俺、やっぱり君のためにロックは捨てられない。だから別れよう』
二日後に彼女からの返信があった。
『わかった……。あなたはあなたの夢を生きてね。私ずっと照山くんのファンだから……遠くからずっと見守ってるから……』
照山は彼女から目を逸らし、雑誌売場を通り過ぎようとした、しかし彼は目にしてしまったのである。純粋な彼が絶対に目にしたくない文言を!
その雑誌はいわゆる写真週刊誌で、芸能人のスキャンダルを主に扱っている。今週の表紙は男性アイドルと人気女優の密会写真で、その写真の右にこんなタイトルが貼り付けられていた。
『またヤった!男性アイドル〇〇今度は人気女優〇〇をお持ち帰り!我慢できず駐車場で合体!』
照山はショックでその場に立ち尽くし、こんなことありえないと髪を振り乱した。そして髪をかきむしりその場にうずくまった。しばらくして彼は顔を上げた。そして手のひらを見ると、そこには彼の髪の毛が大量に貼り付いていた。
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