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終わりの始まり
横嵐学園。
三年C組。
三十二名。
俺たちは全員一緒に死んだ。
それは、修学旅行中だった。
山をバス移動している時に、バスが谷底に落ちて炎上。
誰も助からなかった。
『これで終わりだ』
俺はそう思った。
しかし、そうはならなかった。
俺たちの前に山の神が現れ、いっぺんに死なれたせいで山での魂の管理がキャパオーバーになったから、ちょっと異世界にモンスターで転生してくれと言い出した。
俺たちは何を言われているのかわからなかったが、今こうして転生しているので、無理やりにでも受け入れるしかなかった。
今の俺は卵になっている。
卵の中ではすでに手と足が出来ていて、胎児のように丸まっているがかなり窮屈だった。
たぶんもうすぐ孵化するのだろう。
だが、ここで一つ問題があった。
卵の内側からはうっすらと外の景色が見える。
卵の俺は鳥の巣のような場所にいた。
たぶんここに産み落とされたのだろう。
それは別にいい。
問題は他にあった。
卵が三十一個ある……。
巣の中には、俺を含めると三十二個の卵があった。
これ多すぎじゃね……?
もしかして、クラスのやつら全員いるのか?
あの神様、手抜きしすぎだろ……。
もっと分散させて転生させろよ。
俺たちを産んだモンスターが何なのかわからないが、これだけの子供を育てられるのだろうか?
俺は心配になった。
飢えて死ぬのは勘弁願いたい。
動物番組とかで見たことがある。
強い子供がたくさん飯を食えて、弱い子供は残り物か全く食えないという状況を。
この中での弱者。
それはきっと俺だ。
俺は高校に入ってからずっといじめられていた。
俺の学校は三年間持ち上がり制。
クラスのメンバーは変わらない。
俺は地獄の日々を過ごしてきた。
やっと楽になれたと思ったのに、転生先でまで地獄が待っているなんて……。
俺が何をしたというのか。
ただ静かに暮らしているだけだったのに。
静かに暮らしたいだけだったのに。
世界はどこまで俺に冷たくあたるのか。
絶望。
その二文字が俺の頭をよぎる。
産まれたくない。
そう思ったとき、巣が大きく揺れた。
な、何だ?
俺は周りを見回す。
巣の周りは木で囲まれている。
たぶんこの巣は木の上に作られているのだ。
周囲を見ても変化はない。
地震か?
それともただの強風?
木の上に巣があるなら、強風でも大きく揺れる。
まあ木の上なら多少の揺れも当たり前か。
風で揺れない地面に巣を作って、外敵に狙われ放題なんてシャレになら……。
おいおい嘘だろ!
シャレにならない事態が起こった。
木の幹の方から、どう見ても巨大な青いヘビがこちらに向かって来ていた。
地球のヘビとこの異世界のヘビが同じなら、卵はヘビの食い物だ。
ゆっくりじっくりとヘビが巣に近付いてくる。
卵の状態じゃ逃げられない。
親!
俺の親はどうした!
親は巣を守るもんだろ!
周りを見ても、親が現れる様子はない。
クソオオオ!
役立たずのヘボ親があ!
ヘビは巣に到達した。
近くの卵から食べ始める。
一個、また一個と、卵がヘビの口の中に消えていく。
ヒイイィィ。
俺もじきあの口の中へ……。
そう思うと身体の震えが止まらなくなった。
俺の位置は巣の真ん中辺り。
ヘビは手前の五個の卵をすでにたいらげていた。
俺がヘビの餌食になるのも時間の問題だ。
い、今すぐ孵化しろ!
孵化しろ俺!
動けない卵でいるよりかは、生存の可能性が高くなるはずだ。
早く孵化しろ!
ヘビは十個目の卵を飲み込んだ。
卵を丸のみにしているせいか、ヘビの動きは遅いぐらいなのに、卵はあっという間に食われていく。
俺のところまではあと六個か七個ぐらいだ。
殻よ割れてくれ!
俺は内側から卵を割ろうと試みる。
体育座りみたいな体勢のまま身体を突っ張ってみたり腕を動かしてみたりするが、卵の中は窮屈でうまくいかない。
割れろ!
割れろ!
割れろ!
後頭部を卵に打ち付けてみるもそれも失敗した。
この卵、固すぎだろ!
そうこうしているうちに、ヘビは十五個目の卵を食べ終えた。
俺のすぐ近くまで迫っている。
クソ!
ヘビの頭が目の前にまで来た。
ゆっくりと頭が下ろされ、俺の前にあった卵を食べた。
卵を飲み込むためか、ヘビが頭を持ち上げて空に向ける。
次は俺か……?
俺の周りにはあと二個の卵がある。
両隣に一個ずつ。
この距離ではどの卵から食べられてもおかしくはない。
ヘビが頭を下ろし、俺の右側の卵を食べた。
が、そのヘビの頭が俺にぶつかった。
え?
卵がその衝撃でコロンと後ろに転がる。
しめた!
俺は身体を出来るだけ揺らし、転がる勢いに加勢する。
一回。
二回。
三回。
卵が転がった。
やった!
俺はヘビから離れることが出来た。
俺とヘビとの間にある卵の数も増えた。
これで時間が稼げる。
しかも、卵は横に倒れ、俺の身体も寝転がる体勢になった。
これなら足に力が入れやすい。
俺は卵の殻を内側から蹴る。
足を下げられないからコツンと当てる程度だったが、さっきと比べればいくらかマシだ。
早く割れろおおお!
蹴る。
蹴る。
蹴りまくる。
ヘビは二十個目の卵を食べ終わった。
俺を含めて残り十二個。
俺とヘビの間に卵が増えたといっても、その数は少ない。
早く早く早く早く早く!
蹴っても蹴っても割れる様子のない殻に俺は焦る。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
そうこうしているうちに、ヘビは卵を五個も食べ終えていた。
俺とヘビとの間には残り二個の卵。
嫌だ!
食べられたくない!
俺は渾身の力を込めて卵の殻を蹴った。
殻の内側にうっすらと眩しい光が入り込む。
ヒビが入った!
ついに!
ついにヒビが!
俺はヒビが入った箇所を重点的に蹴りまくった。
やった!
殻がぶち抜け、片足が飛び出た。
片足だけでも十分だ。
まずは巣を蹴って、ヘビから一番遠くへ。
そう決めてヘビを見ると、ヘビは身体を起こしたまま止まっていた。
何だ?
俺とヘビとの間には、あと一個卵が残っている。
何をしているんだ?
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