序章

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『魂を神に売られたくないのなら、ボクがきみを守る呪いをかけてあげる。けれど、代償にきみはずっと待たなければならない。きみを助けてくれる人が来るまで』  それが少女の一番古い記憶。真っ白な月が空を照らした日、狂ったように絵を描くと噂の魔法使いは少女を見下ろしていた。彼女は燭台に囲まれた台の上で拘束されていた。  二人の周囲には、倒れている人々が大勢いた。雨が降らない土地で人柱にさせられそうになった哀れな少女と話をするために、魔法使いが眠らせたのだ。 『どんな方法でも構わない! 私は、こんなところで死にたくない……っ、生贄なんて嫌!』  魔法使いは少女の叫びにニヤリと笑った。 『では契約成立だ。よかったね、前世のように惨たらしく死ぬ前で』  魔法使いは少女の魂を身体から奪い、とある作品に閉じ込めた。生贄になった少女を、神様の目から逃すために。  ……そんな契約を交わしてから、もう八百年が過ぎた。彼女に呪いをかけた魔法使いは死に、気づいたら少女は美術館の地縛霊となっていた。  作品を見る客は大勢いたが、少女を見てくれる者は一人も現れなかった……。
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