第一章

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 長期休暇は少しだけ寂しい。一人ぼっちの時間が増えるから。 「ごめんね、仕事が入っちゃって」 「また今度、埋め合わせをするから」  それは両親がよく使う言葉。ファブリスは「いってらっしゃい」と笑顔で見送る。それがどんなに朝早くでも。せめて朝くらいは両親の顔が見たいから。  両親は魔法大学の教授だった。母が光と闇の魔法使いについて、父は茶髪の魔法使いについて研究している。どちらもとても難しい研究テーマだ。  特に父が研究している茶髪の魔法使いは謎が多い。茶髪の魔法使いは一属性に特化せず、光も闇も使えるからだ。  他の魔法使いは──たとえば赤髪の魔女ロザリーは炎属性に特化しているが、それ以外はあまり使えない。もちろん、彼女は努力家だったため全く使えないわけではない。それでも中級に属される魔法までだ。しかも光と闇の魔法は全く使えない。これはロザリーに限った話ではなく、金髪と黒髪、そして茶髪の魔法使いにしか適正がないのだ。その原因は謎だ。遺伝子なのか脳なのか未だに不明で、そのせいもあって両親は研究室に籠ることが多い。  両親が日の昇り始めた外へ消えていく。扉が静かに閉じる音に何故だか不安を煽られたが、ファブリスは自分の頬をぺちんと叩いた。 「さて、ご飯でも食べましょう」  母が作り置きしてくれた朝食を冷蔵庫から取り出し、電子レンジに入れる。科学というものは便利で、魔法使いのいない東洋を中心に発達しているが、魔力を使わなくても自分の思い通りになる。  静かな家は好きじゃない。一人のご飯も。どんなに明るい照明を点けても、電子レンジで料理を温めても、心に残ったしこりは溶かせない。
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