桜隠し(改稿版)

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例年(いつも)の春より幾分か 早い開花と聞いていた。 車のラジオで聴いていた。 なのに季節外れの雪が 昨日も今日も降っている。 春の喜びを嘲るように ピンクを白が塗り込める。 桜に積もるこの雪を桜隠しというらしい。 春を待てずに綺麗に咲いた 柔らかく無垢な花びらを ふんわり覆う綿帽子。 そんな珍事はかつてもあった。 花びら隠す雪の果て。 単身赴任の地で遭った 女は寝息をたてている。 静かに寝息をたてている。 みぞれを払うワイパーが 描いては壊すスクリーン。 扇の型の幻灯機(ゾートロープ)。 桜吹雪はまだ早い 吹雪の夜に幻影(ゆめ)を見た。
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