「路地裏にて」

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「路地裏にて」

「・・・なんですか」 廃墟ビルの間にできた空間に座っていた彼女に睨みつけられた。 小柄ながら その目は冷たく何かを貫きそうな鋭さだった。 そのはずだ。赤の他人が入ってきたと思ったら、いつまでも見ているのだから。 「・・・いや 大丈夫かなぁ と思って」 「・・・余計なお世話です」 「深夜回るし・・・ほら、カツアゲとかにでも遭ったら大変だし・・・」 「ここの治安は良いので」 彼女は吐き捨てるように言った。 どこかのパイプから タバコが混ざった煙が立ち込める。 「・・・隣座っていい?」 「どうぞ」 自分は小さなコンクリートの段差に腰をおろした。 「・・・今日は仕事帰り?」 何か話題を探さなきゃいけないと思い、彼女がスーツ姿であることに注目して、唇をきった。 「個人情報なので」 彼女は、道路のシミを数えるように顔を上げない。 「・・・そっか」 あっけなく会話は終わってしまった。 オープンカーから垂れ流される音楽と、酔った人混みの喧騒が鳴り響く中、気まずい沈黙に包み込まれる。 じっとしているのも落ち着かず、上着のポケットに手を入れる。 「・・・あっ」 ホカホカとした温度に触れ、それを取り出した。 香ばしい匂いが漂う。 「・・・」 彼女は顔を少し上げる。 それを半分に切ると、彼女に手渡す。 「食べる?たいやき。ほら そこの屋台で売ってた」 「なんなんですか本当にっ」 彼女は勢いよく立ち上がる。声には苛立ちがあった。 「全く知らない人なんかから物はもらえませんっ!」 「結構食べてないでしょ?」 「っっっ・・・あなたには関係な」 「これ」 彼女の声を遮る。 「小銭で買ったやつだから。」 「・・・・こぜに・・・」 「そう。小銭。」 彼女は言葉を失うように座り込む。 自分は続けて言う。 「君  お金持ってるでしょ?」
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