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「・・・さっきは すみません・・・」
彼女は新聞紙の袋に入ったたいやきで手を温めている。春とはいえ、今日は珍しく底冷えする日なのだ。
「・・・無事に買えたんですか?」
「いや。無事とは言えないかも。後ろからすごい目線感じた。」
彼女は黙って聞いている。
たいやきを食べようとせず、新聞紙の記事を見つめる。俺も同じように袋を見回す。
あぁ・・・やっぱりだ・・・
「これ うまくいくと思う?」
「・・・さぁ・・・私には・・・」
彼女は若干何かに反応したようだが、隠すようにたいやきを食べ始めた。
『行為現金化政策』
それは文字通り 通貨ではなく、個人の労力や人間性を現金と同価値のポイントにし、ポイントを用いて買い物や施設利用などができる政策のことだ。
近年増加するキャッシュカード詐欺や金銭トラブル・事件に対応するため、優れた技術を集め、数年前に世界各地で実現が可能になった。
日本はしばらく様子を見ていたが、つい1ヶ月前に導入することになった。
もちろんこれまで通り通貨での売買も可能なのだが・・・事実上 金という物理的なものが人々の意識から消え失せかけているのだ。
「君はポイント化しないの?」
「・・・・・・」
彼女は 頭が欠けたたいやきを見つめて黙った。
「・・・ごめん 話したくなきゃいいんだけど」
「怖いです」
風に飛ばされてしまいそうな 儚い声だった。
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