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全部ホルモンのせいだってことにして
不機嫌な恋人の背中を見ながら、私はただ自分の失敗を悔やんでいる。
二人で買ったウィルコム。電話代を気にせず話せるねって、これでいつでも電話できるねって。
そのウィルコムを恋人は落とした。自分で探そうとしないから、私が全部やった。駅に電話して、警察に電話して、紛失物なんちゃらって書類を届け出て、って全部。
そんな私を恋人は、世話焼きな母親みたいだって笑った、鼻で。
瞬間、自分でもびっくりするくらいに腹が立って、デート中、私は恋人を置いて自分のアパートに帰った。
ホルモンのせいにしようと思った。決して恋人に幻滅したわけじゃない。恋人にバカにされたからじゃない。ホルモンバランスのせいで精神が不安定なのだ、と。
布団に潜り込んで重たい下腹をさすって、夕飯も作らずに眠ってしまおうと思うのに眠れなかった。
しばらくして部屋の鍵がガチャって開いて、ああそうか、と自分の失敗に気づく。
ものすごく不機嫌な顔をした恋人が、つらつらと、私の「勝手な」行動に対して説教を垂れ始める。こういうときだけ年上面して、「常識」とかムカつく言葉使って、私にどうして欲しいというの。
鍵を返してよ。私の部屋の、鍵を返してよ。
合鍵なんて渡さなければよかった。
初めての一人暮らし。好きなものだけで満たそうと決めた部屋。だから鍵を返してよ。勝手に入ってこないでよ。
男の人には一生わからない痛みに耐えているんだから。どうかこんな日くらい時間を戻すとか、神様が願いを叶えてくれるとか、ないの、そういうの。
ウィルコムなんて買わなきゃよかった。
脈に合わせて強くなる下腹の痛みと一緒に、そんな考えも大きくなる。
だけど私、言おうとしたんだっけ。
二人でウィルコムショップに行った日、帰り道、「別れたらこれ、どうするの?」って。言わなかったけど。言ってやればよかったな。
今、言おうか。でも言わないんだろうな。この人に本音なんて、言えないんだろうな。
ああ私は、色々失敗しているな。
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