田舎編.6

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田舎編.6

秋祭り以降、明彦はさらに地域に馴染んでいった。 顧客や知り合いも増え、たまに野菜など色々くれるご近所さんなどもできた。以前の様にモジモジとする事がなくなり、成長したなあと自画自賛するほどだ。 仕事帰りに時間があるときには、神楽団の練習を見にきたらどうかと山野たちに誘われてたまに見学に行ったりしている。大和と喧嘩することも少なくなり(全く無くなった訳ではないが)安泰な日々。 そんな中、それは起こった。 山野が本業である林業の作業中に怪我をした。幸い、命には別状はなく治癒まで三ヶ月の骨折。だが年齢的に不安を感じた山野は、これを機に神楽団長を辞めると断言したのだ。 驚いたのは神楽団のメンバーたち。山野が舞うことは最近なかったので舞台自体には問題はないが(太鼓も代役がいる)何より神楽団を運営するノウハウがなくなってしまう。団長ともなると、時間も背負うものも大きくなかなか立候補する者はいない。 山野の怪我から数週間が経過した。晩秋となった頃から不穏な空気が流れ始めていた。このまま神楽団を解散してはどうかと。高齢化もすすみつつあるし、このまま続けても…とメンバー達もうなだれていく。 ショックを受けたのは明彦も同じだった。 皆あんなに頑張ってたのに、このまま終わるなんて。山野さんだって解散となれば悲しむだろう。 何故誰か継がないんだ、と苛立ちながら部外者であるが故に口を出すわけにもいかず悶々としていた。 (ああ、もう…!) 明彦は大和の職場へと向かった。 作業を終えて帰宅しようとしていた大和を、明彦が止めて話があるから飯でも、と誘った。 大和と晩ご飯を食べるのはこれで3度目だ。昼間は定食屋、夜は居酒屋の「浜や」に腰を落ち着ける。明彦はビールを大和は焼酎を飲んでいた。 「浜や」の名物、大鍋で温めているおでんで腹を満たして明彦は本題に入る。 「神楽団…、お前が継がないのか?」 突然そう切り出した明彦。大根を突きながら大和は怪訝な顔をする。 「何を急に…」 「いやだってさ、皆なかなか立候補しなからさ…このままだと解散しちゃうんじゃないかと思って。お前なら皆んなにも好かれてるし、行動力もあるし」 グイッとビールを飲みながら、次の具材を探す。 大和はまだ若いがしっかりしている。団長にはうってつけだ。何より神楽が好きで移住するくらいだ。 「…無理だ」 冷静な大和の言葉に明彦は持っていた箸を落とす。 「え、何で」 「俺は団長程の人望もねぇよ。舞うだけで精一杯だ。仕事もあるし」 大根を口にしながらそう語る大和に、明彦は話を続ける。 「できる事あれば俺も手伝うよ。事務方とかなら得意だし…団員と認められてないけど…」 「甘いんだよ、お前!」 どん、と大和は机を拳で叩く。 「山野さんがどれだけがの年月かけてこの神楽団をしてきたと思ってんだ!」 大和の剣幕に明彦も、店内の客も驚く。拳をきつく握ったままの大和を、明彦は落ち着かせるように悪かったよ、とりあえず店出ようと促した。 店主がオロオロしながら二人の様子を見ている。明彦は勘定を済ませて、店主と客達に謝りながら、大和の手を半ば強引に引っ張り外に出た。 「お前、あんなとこで怒鳴んなよ!」 誰もいない、神社前の空き地で今度は明彦が大和に食ってかかる。 「そりゃ、大和からしたら俺に言われるのが気に入らないのは分かるけど…」 「分かってねぇよ!」 大和は続ける。 「余所者(よそもの)の俺が、継げる訳ないだろ…!」 絞り出すようにそう言う。 言い放った大和の頬に、明彦が殴りかかった。 「何する…」 「本気で言ってんのかよ、お前!」 明彦は真っ赤になって拳を強く握り、まだ殴りかかろうとする。大和はそれを止めながら明彦を見る。 「余所者なんて皆思ってねぇよ!そう思ってんのはお前だけだ!何より神楽大好きじゃねぇか!なのになんで諦めてんだよ!移住する度胸はあるくせに、継ぐ度胸はねえのか。お前の想いはそんなものかよ…ッ!」 気がつくと明彦の瞳が潤んでいる。拳を下げ、大和の胸ぐらを掴む。大和は呆気にとられて、身動き出来ない。 「俺みたいに神楽すげぇって、皆に見せつけてやれよ!もっと惚れさせてみろよ!」 怒鳴りつけて明彦は、胸ぐらを掴んでいた手を離してその場から駆け出した。 「な、おい…!」 大和の制止を無視して、そのまま駆けていく。
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