田舎編.7

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田舎編.7

そんな出来事があった、3日後の定期練習日。 たまに練習を見に来る山野の元に、大和が話があると切り出してきた。大和は改めて正座をすると、畏まって頭を下げる。 「…俺に団長、継がせてください」 大和のその言葉に、山野は満足げに微笑んだ。まるで大和が言ってくることが分かっていたかのように。 「やっと言ってくれたか。皆、今か今かと待ちよったで」 「山野さん…」 大和は深々と頭を下げる。そして一つお願いがあります、と告げた。 明彦は最近、何をするにしても「こころここにあらず」な状態だった。 新井が呼んでも気づかなかったり、お茶をこぼしてしまったり。体調が悪いわけではない。ただ… (何であんなこと言ったんだろ) 大和に怒鳴りつけてしまったこと。自分の気持ちだけぶつけて逃げたこと。 大和だって色々考えてるはずなのに。 それと。 『皆に見せつけてやれよ!もっと惚れさせてみろよ!』 何でそんな台詞になったのか、思い出すたびに赤面してしまう。言葉のチョイスがおかしいだろ、と自分自身にツッコミをいれた。 それにしても、今日の練習日は見に行くべきなのか。大和とまた言い合いになるんじゃないか…と考えながらも足を向けた。 意を決して練習場として借りている公民館に着くや否や、山野に呼ばれた。何事かと思っていたら大和が団長を継ぎたいと申し出があり、メンバー全員から承認受けたと教えてくれた。 「大和が…?」 (何だよあいつ…) 自分にはあんなに食らいついてた癖に、と口を尖らせていると、山野が一つ大和が言ったことがあると教えてくれた。   「自分は神楽バカだから、舞うことはできても運営は難しい。なのでサポート人員が欲しいと。じゃけ明彦を迎えて欲しいと」 「…え」 「団員たちも大歓迎だとよ。どうする?」 ニヤニヤ笑う山野。 「やりますっ!お願いします!」 「大和を説得してくれたのも、お前さんなんだってな。聞いたよ。助かったよ」 どうやら「浜や」にいた客に山野の知り合いが居たらしく、そこから聞いたらしい。 山野は嬉しそうに自分の頭を撫でる。 「じゃあ後でまた皆に紹介するけぇ」 「はい!」 深々と頭を下げる明彦。 (大和に謝らないと) 大和はいつも、練習前に公民館裏の喫煙所でタバコを吸っていた。この日もタバコを吸っていると、後方から明彦に声をかけられた。 「大和、この前はごめん!あと、団長継ぐって…」 「ああ。お前がうるさいからな」 短くなったタバコの火を消して大和が明彦を見た。うるさいってなんだよ、と明彦が口を尖らせていると突然、大和に抱きつかれた。 「色々吹っ切れた。お前のおかげだ」 抱きつかれて硬直している明彦。 「山野さんから聞いてくれただろ。サポート役としてここに入ってもらうって。…お前がいないと、俺がダメなんだ」 大和は更に力を込め、抱き締める。 明彦の顔はみるみるうちに真っ赤だ。 (お前も言葉のチョイスがおかしいだろ〜!) 「お、俺も頑張るから!大和が苦手なとこ任せとけ」 大和の体を離れさせて、明彦はしどろもどろ。 対する大和は嬉しそうに笑う。 「ありがとう」 新しい団長と、新しいメンバーはすんなりと受け入れられ、まるで以前からそうだったかの様にすんなりとことが運んだ。 メンバーたちは二人を歓迎し、大和に握手しながら礼を伝えるものもいた。 みんな神楽団をなくしたくなかったのだ。 明彦は事務や運営などを一手に引き受ける。公演の手続き、経費処理や団員たちのお弁当準備などなど正に縁の下の力持ちだ。手が空いた時は練習を何時間も見ている。メンバーたちの舞う姿。とりわけ大和の舞う姿に明彦はジッと見ていた。 「最近、明彦の様子おかしくねぇか」 そう言ったのはメンバーの中でも年配の立川だ。練習あとのプチ宴会での中。立川の言葉に数人が頷く。大和もその場にいた。 「よくため息つきよるし、いつも何か考え事しよる」 体調が悪そうではないけど、浮かない顔をしてることが多いと皆が言う。 「そらあ、あの年頃じゃけ、女よ」 中堅どころの山根が答える。おお、そうかと皆が笑い出した。ここには女が婆さましか居らんから、元いたところに彼女でもおるんじゃないかと憶測が飛び交う。 「大和は何も聞いとらんのか」 「特に…」 恋人がいるとか、プライベートな話はほとんどしていないことに大和は気づいた。彼女がいてもおかしくない。むしろ結婚話も出ていい歳だ。 明彦も、大和も。 モヤっと胸が重くなる。 (あと何年一緒に居られる?どれくらい自分の横に…) 飲んでいた緑茶が急に渋く感じた。
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