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風が連れ去った恋
別れようと言って、別れたわけじゃない。フェードアウトっていうか、僕が遠ざかったというか。なんとなくメッセージアプリで連絡しなくなって。友里からの連絡も途切れがちになって、そのうちデートしなくなって、全く会わなくなって。
交際期間は、3か月と短かった。
そして、それから半年が過ぎた。
人生というのは、時として不可解な展開を見せる。
その日起こった出来事は、余りにも唐突で、俄かに信じがたいものだった。
冬のはじめ、空気が少し冷えて、上着の袖口から寒さが入り込んでくるのを感じながら、駅からの道を歩いた。人がまばらな夜更け。突然つむじ風が吹いて、枯れ葉や小さなゴミを巻き上げて、一瞬僕の視界を遮った。
アパートの入り口にある郵便受けには、広告に紛れて絵葉書のようなものが入っていた。
ルームウェアに着替えて、ポットでお湯を沸かし、ドリップ式でコーヒーを入れ、マグカップを持って二人掛けの小さなソファに座り、さっきの郵便物に目を通そうとした。
あれっ、友里の絵じゃないか?淡い緑や水色の独特の配色。あの画廊からの葉書だ。そこまでは、良かった。
次に目に飛び込んで来たのは、「遺」の文字。遺作展、い、いさくって...
嘘だろう! 僕は固唾を呑んだ。
いや違う。そんなはずはない。もう一度その葉書を見る。
「田辺友里 遺作展」
瞬きが速くなり、心臓が高鳴って、胃が上に持ち上がったような感じで吐き気がして、手がわなわなして、脚ががくがくして。体の震えが止まらない。
映画のフラッシュバックのように断片的に二人の想い出が蘇ってくる。寂しそうな微笑み、ため息を堪えるような口元、遠くを見つめるような眼差し。
友里、君は...
君は、辿り着くことができない、遠い世界へ行ってしまったの?
本当なの?
どうして?
何かしなければ、何か? どうすれば、どう?
僕は、手元にあったスマホで画廊に電話した。葉書に書いてある番号に。そのくらいしかすることが思いつかなかったから。でも、夜遅かったので、時間外の留守電になっていた。
明日の朝までどうやって時間を過ごせばいいのか?
友里の笑顔を必死で思い出そうとした。そういう時に限って、少しも思い出せない。
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