9人が本棚に入れています
本棚に追加
ラスト・メッセージ
あの、僕、電話した...
そこまでなんとか口に出したところで、「あぁ、津川さんですね。今、オーナー呼んできます。」と受付の女性に返され、ホッとした。
いつかの画廊のオーナーは、きごちない笑顔で登場した。
「お待ちしてました。友里さんからメッセージを託されていたんですよ。」
そこから、どんなやりとりをしたのだろうか?
記憶は涙のベールで被われていて、歪んだ映像のようにはっきり見えない。
友里は、僕が出逢った時には、すでに死に至る病に侵されていた。芸大を出て、画家として生きて行こうとした矢先、その病気は発覚したらしい。彼女の父親が娘を不憫に思い、励まそうと、友達に相談して個展を開くことにしたという。その友達というのがこの画廊のオーナーだった。それで、少し元気を取り戻したらしい。
でも、彼女は、死を覚悟していて、時間を惜しんで創作活動をしていたと言う。決して疲れた様子を人には見せなかったが、身体は相当衰弱していたようだ。そして...
オーナーは、一度僕をバグしてくれて、背中を何度かポンポンと優しく叩いてくれた。まるで父親が息子にするように。
友里からのメッセージは、彼女らしく控え目だった。
絵本のストーリー、間に合わなかったね。でも、大丈夫。今日からあなたは、どんどん物語が書けるわ。遠いところから、そうあの景色の場所から見守っているから。
あなたに逢えてよかった。ずっと一緒にいたかった。
友里
最初のコメントを投稿しよう!