ラスト・メッセージ

1/1
前へ
/7ページ
次へ

ラスト・メッセージ

あの、僕、電話した... そこまでなんとか口に出したところで、「あぁ、津川さんですね。今、オーナー呼んできます。」と受付の女性に返され、ホッとした。 いつかの画廊のオーナーは、きごちない笑顔で登場した。 「お待ちしてました。友里さんからメッセージを託されていたんですよ。」 そこから、どんなやりとりをしたのだろうか? 記憶は涙のベールで被われていて、(ゆが)んだ映像のようにはっきり見えない。 友里は、僕が出逢った時には、すでに死に至る病に侵されていた。芸大を出て、画家として生きて行こうとした矢先、その病気は発覚したらしい。彼女の父親が娘を不憫(ふびん)に思い、励まそうと、友達に相談して個展を開くことにしたという。その友達というのがこの画廊のオーナーだった。それで、少し元気を取り戻したらしい。 でも、彼女は、死を覚悟していて、時間を惜しんで創作活動をしていたと言う。決して疲れた様子を人には見せなかったが、身体は相当衰弱していたようだ。そして... オーナーは、一度僕をバグしてくれて、背中を何度かポンポンと優しく叩いてくれた。まるで父親が息子にするように。 友里からのメッセージは、彼女らしく控え目だった。 絵本のストーリー、間に合わなかったね。でも、大丈夫。今日からあなたは、どんどん物語が書けるわ。遠いところから、そうあの景色の場所から見守っているから。 あなたに逢えてよかった。ずっと一緒にいたかった。 友里
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加