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俺、城ヶ崎 帝翔は容姿端麗、頭脳明晰、寛仁大度の三拍子が揃った完璧な男である。
故に誰にも負けることは許されない。
父は顔がいいだけのアホだが、母が所謂できる女だった。
俺も母のようになりたいと必死に努力した。
そんな俺に、強大な敵が現れた。
それは、突然だった。
2日ほど前、左足の指に違和感を感じた。どこかで切ってしまったのか軽い痛みと痒みがあった。まぁ気にするほどでもないか、と放っておいた。
しかし今日、ベッドで横になり、つかの間の休息を楽しんでいたら、猛烈な痒みに襲われた。
な、なんだこれは。
戸惑いつつ、左足の指を見てみる。別に変わった様子はない。怪我をした様子もない。
意味がわからず、多少の苛立ちを抱えつつもふと左足の中指と薬指の間を覗いた。
その瞬間、言葉を失った。
「こ、これは……………
み、水虫っっっ」
皮が向けてしまっている。
こ、この俺が水虫だと??
すぐさま病院へ向かい薬をもらった。マスクアンドメガネで知り合いに会ってもバレないように皮膚科に行った。
この完璧な俺が水虫ごときに…これは絶対に負けられない。
まぁ、すぐに治るだろう。
そう思って薬を塗り始め、2日ほど経ったある日
「か、痒い! うおおおぉぉぉ」
と、雄叫びを上げた。耐えられずにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
驚いた妹は顔を顰める。
俺には母に似てできる女オーラをビシバシと放つ妹が一人いるが…俺を虫けらを見るような目で見てくる。お兄ちゃんちょっと悲しい。
「ねぇ、お母さん、お兄ちゃんどしたの」
「水虫になってしまったそうよ」
「お父さんも若い頃は悩んだものだ」
「ふーん」
自分から聞いといて妹は興味無さそうだ。
「あの子、どんどんあなたに似てきたわね」
「そうか? 」
聞き捨てならないことが聞こえた。
父に似ている!?
俺が!?
「うん、こういうアホなとこは似てるね」
妹まで同調する。
ひどい、酷いぞ。断じて俺は父のように
ほわほわしたアホでは無い!
「俺はアホでは無い! うおおおぉぉぉかゆい! 」
「んーお前はアホだぞー俺に似て」
ち、父はアホって自覚してたのか。
「訳わかんないこと言ってないで早く薬塗りなよ」
そう言って俺が机に置いた水虫の薬を妹に投げつけられる。
「おま、ちょ、投げるのは酷くないか?? 」
「うるさい」
「…」
妹がひどい…。しかし痒みに耐えられないので大人しく薬を塗り塗りする。
これも全てこの憎き水虫のせいだ!
水虫なんてボコボコにしてやる!
この戦いは俺の名誉を守るため、絶対に負けてはならない!
俺は1人、心の中で決意を固めた。
それにしても…
「痒いいぃ! 」
「「「うるさい」」」
父にまでうるさいと言われたことがショックで一瞬痒みを忘れた。
しかし痒みはまたすぐに舞い戻ってくる。
断言しよう、水虫は強敵である。
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