怪盗トゥエルブのボランティア

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 あの電話から数日後、二人でこの美術館にやってきた。首元からぶら下げているのはボランティアスタッフ・トゥエルブという名刺。怪盗と言っても最初は全く信じて貰え無かったが何度も電話をかけ、ようやくもぎ取ったこの仕事。大規模だがあまり整備されていない大理石の建物は、良い雰囲気を出していた。トゥエルブは楽しくなってきたので助手の肩をバンバン叩く。 「やっぱ怪盗は根気だよな!」 「……貴方の奇行には幾らか目をつぶってきたんですけどね、今回は正直殴らなかったことを褒めて欲しいですよ」 「ハッハッハ。イレブンも言うなぁ〜」  イレブンは迷惑そうにため息をついた。 「で、今度の獲物は何ですか?」 「何言ってるんだ? 今日の俺はボランティアスタッフだぞ? 何で怪盗業をしなけりゃならないんだよ」 「…………………………」  じゃあ、僕を呼ばないでくれ! そう言いたげにイレブンはトゥエルブを睨んできたが何も言わなけりゃ意味が無い。そう思ったトゥエルブはさっさと集合場所に向かった。  目的地である多目的室には既に館長らしき男が来ており、にこやかな笑顔で俺たちを迎えている。 「いやあ、皆さんようこそ我がツブレーソウ美術館へ!」 「……僕ら以外に居ませんが」 「芸術に理解がある人間が最近少ないからな。仕方ねえよ」 「いやー! トゥエルブさんの言う通りですね! お若いのに良い方だ!」  二人で笑い合う館長と俺にイレブンはまた、ため息をつく。ズレ落ち無いはずの眼鏡をかけ直す。 「……で、ボランティアスタッフって何すれば良いんですか? トゥエルブに寝ているところを連行されたので詳細を知らないんです」 「おやおやそれは、何とも仲がよろしいことで……実はですね。この美術館、出るんですよ」 「出る……とは?」 「幽霊だよ。幽霊」  トゥエルブの嬉しそうな声にイレブンはこの世の憎悪を煮詰めたような顔をする。 「帰って良いですか?」 「イレブンさんがそう言いたい理由は分かります。ですが、我が美術館はその幽霊の噂のせいで閑古鳥……どこも何も貸し出してくれませんし……目玉の美術品も無くこのままでは潰れてしまいます」  どうりで僕がこの美術館を知らないわけだとイレブンは納得する。大きいだけの美術館なんて、調査する価値もない。トゥエルブは景気づけだと館長の肩もビシビシと叩いた。その際に、盗聴器を仕掛けたことはイレブンにしか分からない。 「一説によると、幽霊はゴーンという音とともに頭痛を引き起こしてくるそうです」 「幽霊なのに随分物理っぽいですね」  胡散臭いですね。と後ろに付け加えたそうにイレブンは悪態をついている。トゥエルブはイレブンの肩を触る。 「まあ、俺らに任せとけって! ボランティアだからな、ちゃーんと幽霊退治してやるよ!」  ボランティアの本当の意味を理解しているのかわからないトゥエルブが、例の貼り紙をポケットから落とす。イレブンは、何だろうとそれを見てみた。  するとそこには『幽霊退治ボランティア募集!』と書かれておりイレブンは二人に気づかれないよう、そっとその紙を踏んづけた。
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