3人が本棚に入れています
本棚に追加
夜の雰囲気は怪盗もお好き(場合による)
外に出たトゥエルブはため息をついて立ち止まった。手を何度も握りながら、眺めている。イレブンは傍によって話しかけた。
「……らしくないですね。貴方があんな状況で判断に時間をかけるなんて」
「あいつの声を聞いた途端打撃を受けた感じがしてな……体が痺れる感覚があったんだ。それさえなけりゃなあ」
「トゥエルブもでしたか……僕もあんな感覚は初めてです。金縛りにあったみたいな感じでした」
「そうだったんだ……僕は久々に外に出たよ。僕って地縛霊だと思い込んでたから……にしても美術館って見た目あんまり変わらないんだね。改装工事もいらないわけだよ」
「…………は?」
どちらかと言うと工事する金が無いだけで結構廃れてるじゃないかとトゥエルブがゴーストの方を向く。イレブンも同じように振り返り、また凍りつくような感覚を覚えた。
この状況で言いたいことなんて山ほどある。まず美術館の見た目だ。満月の光に彩られた眩しい白。昼間ですらこんな小綺麗な見た目じゃなかったはずだ。それに、今夜は新月だったはず……
イレブンは氷が溶けたように大慌てで駆け寄り、美術館の壁を摩ってみる。それは明らかに最近できたものの感触だった。よく見ると周りの木々も先程と微かに違う。自分たち以外の人が入っていった気配も残っている。どう考えても同じ場所ではなかった。
夜でも使える双眼鏡で辺りを見渡すと、少し遠い街は現代の技術で光るものなど一切無かった。冷たい液体が頬を流れる。
そしてもう一つ。ゴーストの声をした少年がそこに立っていた。トゥエルブが黙って見つめてくるので少年はキョトンとしてこっちに走ってくる。そして、自分の行動に驚いたように足元を見つめた。膝を屈伸させ、足をあげて何度も自分の靴を見る。嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる姿は何処にでもいる少年だった。
「トゥエルブ! 僕、人間に戻ってる! それに思い出したよ。僕の名前は怪盗エースだ! わーい!」
「よしじゃあ狙うべきお宝の名前も思い出せるな。予告状がもっとカッコよくなるぜ。名前は何なんだ?」
「えーっとねえ……」
エースが思い出すより先にイレブンは叫ぶ。
「トゥエルブ! この美術館どころか世界が異様です! 先程までと明らかに違います! あの幽霊が何かしたとしか思えません。一旦美術館に戻り原因を探るのが懸命です!」
トゥエルブはポケットから通信機器を取り出し「アジト」と書かれた番号に発信する。一切応答がないどころか圏外。警察による妨害電波もすり抜けられる機械を試しに使い「ナイン」というアドレスに送ったが、それも応答なし。
「待て……ああ、アジトから応答がない。ナインに何かあったか……」
「どう考えても、僕らに異常が起きたんですよ! 大体ナインは貴方からの通信を切るタマじゃないのはご存知でしょう」
「…………さっきからナインナインって誰?」
「俺のもう一人の助手だよ」
「何で今日は一緒じゃなかったの?」
「連ドラの最終回だからって断られたんだ。探偵モノに弱いんだアイツは……」
エースはこの怪盗団、絆ボロボロじゃないかと思ったが、口にするほど野暮では無かった。見た目こそ少年だが長い月日は己を大人にしたのだとエースも痛感する。
最初のコメントを投稿しよう!