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暖かい初夏の光に包まれて。
いや、違うな。
まだ6月だっていうのに、今年は真夏のように暑い。
「髪を切ってよかった、かな……?」
わたしはそう、呟いた。
なんか、頭が軽くなったような気がする……。
いつものようにここでお弁当を広げて食べるのも、もう潮時なのかも……。
そんなふうにも感じていた。
今日、同じクラスの女の子達に、
「ねぇ、伊織。たまには一緒にお昼たべよー」
って、誘われた。
「うん。ありがとう。でも今日はあんまりいい天気だからさ。外で食べたい気分なんだ。ごめんね」
嬉しかったけど、そう断って。
「じゃあ今度一緒にたべようね」
彼女達は、そう言ってくれた。
少し、戸惑っているのかもしれない。
髪を切ってから、周りの態度が変わったような気がしていたから。
「おーい、ボール取ってくれない?」
遠くから、叫んでる声に気がついてわたしは足元に転がっているボールを拾った。
で、どうしようかと悩んで。
やっぱり投げ返してあげたほうがいいのかな?
でも、そしたらどこに飛んでいくかわからないし。
「あ、やっぱりいいよー。そのまま持ってて!」
その声の主は、走って近づいて来て。
やっぱり。
山崎晶君。
「ありがとう。林さん」
「山崎……あきらくん……」
「なんか、変わったね。林伊織さん」
「え……?」
「林さんが俺の名前フルネームで呼んでくれるなんて、初めてだからさ」
山崎君はそう言うと、ドン、と、芝生に腰掛けた。
「いいの? ボール、待ってるんじゃないの?」
「うん。いいんだよ。今は君と話したいから」
その言葉に頷いて、わたしも、そのまま彼の隣に腰掛けた。
「名前なんて、覚えて貰えていないのか、と、思ってたよ」
「え?」
「いつも俺の方から話し掛けて。君はつまらなそうだったし……」
「そう、だったかな」
たぶん、そうだったと思う。
わたしは生きていることすべてから、逃げていたから。
「だから名前も覚えてくれていないかと思った」
明るい日差しの中で、彼の笑顔が光っていた。
眩しくて。
わたしもたぶん笑顔でいたとおもう。
暑い、夏が来る。
END
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