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彼と知り合ったのは、大学の構内で。
お昼休みに池の周りの芝生に座ってお弁当を食べている時。
眩しい日差しを適度に遮るのに丁度いい木陰で、しかも目の前に広がる池の表面はキラキラと輝いてとても綺麗で。
ここは、わたしのお気に入りの場所だったのだ。
まぁ、こんなところでお弁当を食べているのはわたし一人ではあったけど。
そんなときだった。
お~い、ボール取ってくれない? という声に気がついて足元に転がってきた野球のボールを拾ったわたしは、とりあえず立ち上がっておもいっきりその声の方に向かって投げてみた。
わ!、どこ投げてるの! と叫ぶ声は聞こえてきたけれど。
まぁ、わたしに取ってなんていうのが間違ってるんだ。
と。そのまま意識の外に追いやって。
おべんとの続きにとりかかった。
お弁当を食べ終わって。枝の隙間から漏れてくる暖かい初夏の光を浴びながら、ぼーっと空想の世界に浸って。
あー。幸せ。
この瞬間が一番幸せかも。
そんなふうにぼんやり考えていたら、何時の間にか隣に人の気配がする。
わたしは思わず身構えた。
自分の空間にズカズカ入って来られた気がして、すごく腹が立って。
もうしばらくのんびりするつもりだったけれど。
しょうがないか……。
わたしは隣に座った人を無視したまま、立ち去ろうとした。
人と争うのは嫌いだし。
と、いうか、他人と拘わるのが、嫌いだったから。
と、そのとき。
ねえ、君って変わってるね。と、いきなり。
わたしは見ず知らずの人になんでいきなりそんなことを言われなきゃなんないんだろうと、相手の顔を睨み付けた。
でも……。
もしかして。
この人、さっきのボールの人?
声は似てるかも。
顔は、よく覚えていないけど。
もしかしたら……さっきのこと、文句言いにきたんだろうか?
睨み付けては見たものの、ちょっと不安になって。
ねぇ、あんた、もしかしたらさっきのボールの人? と、そう聞いてみた。
そしたら。
え? 林さん……もしかして俺のこと、知らない、とか……? なんて、なんかへんてこりんな返事が返ってきた。
知らないわよ! と、言いたいのを堪えて。
頷いた。
口に出して、言い合いになるのも煩わしい。そんな気分だったし。
わたしが頷いたのを見てか、彼はなんかいろいろ喋っている。
どうやら、同じ学科の人らしいんだけど。わたしには覚えがない。
まぁ。覚えてる人の数のほうが少ないんだけど。
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