鏡の中のわたし。

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 彼を見つけた。  ファーストフードの店頭で。    いらっしゃいませ。  そう元気よく声を掛ける彼を見て。  わたしは、似合ってるな、なんて、思って。    彼もわたしの事に気がついたのだろう。  少し、はにかんだような顔をしていた。    でも、元気でよかったな。  え?  わたし、心配していたの?  なんでそんな事思ったのか。  わたしには解らなかった。    ねぇ、林さん。  彼はわたしの接客中に、そう小声で話しかけてきた。  あと30分、ここで待っててくれないかな?  そう聞こえた。  わたしは無言で頷いた。  どうして頷いたのか、わからなかったけど。    実はどうしても欲しいものがあってさ……。  なんか、何時の間にかわたしの前に腰掛けている彼は、わたしに一生懸命喋っている。  時折見せるはにかんだ笑顔が、すごく眩しくて。  わたしは彼の前でどんな顔をしていいのか、わからなくて……。      君は。俺といるの、嫌?  彼がそう、言うのが聞こえた。    わたしはどう反応していいのか、迷った。  嫌だって言えば良いのに。  そういう声が頭のなかで響く。  でも、言えなかった。  言いたくなかった。  なんで?  なんでこんな風に思うのだろう?    彼が少し寂しそうな顔に見える。    そんな顔、してほしいわけじゃないのに。  そんな悲しそうな声、してほしくないのに。    わたしはいま、どんな顔をしているのだろう?  どんな顔を……。  
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