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鏡の前で、わたしは髪の短くなった自分の顔を見ていた。
あれから。
彼はわたしの方を見ようとしなかった。
別れ際の悲しげな笑顔が、記憶に残っている。
最後に彼がなんて言ったのか、も、覚えていない。
いずれその表情も、記憶から消されていくのだろうか?
いや、消すことができるのだろうか?
美容院で、髪を切ってください。と、そうお願いしたら、美容師さんに失恋でもしたの? と、聞かれた。
そういうものなんだ。
そのときはそんなふうに感じただけ。
失恋?
失恋まで、行っていない筈。
まだ、彼の事、は、わたしの中では他人だった筈。
そう思っていた筈なのに……。
彼の事、好き、だったのだろうか?
それとも……。
せっかく閉じ込めていたのに。
もう、傷つくのは、嫌、だったのに。
なんで?
髪を切ったわたしは、あのひとに似ていた。
記憶の片隅に追いやった筈の、もう忘れた筈のあの顔に。
あの人はわたしを見ていなかった。
それが、悲しかった。
信じていたのに……。
裏切られて……。
彼の事、好き、だったのだろうか?
そう……。鏡の向こうのわたしに、聞いてみる……。
でも、わたしにはそんな資格があるの?
彼の事、見ていたっていうの?
わたしも、あのひとと一緒?
結局自分のことしか愛せなかったのか?
彼の事なんて、見てもいなかったくせに。
彼の言葉を、聞いてもいなかったくせに。
彼の悲しげな笑顔が焼きついている。
なんでこんなに苦しいの?
なんでこんなに……。
鏡の中のわたしは泣いていた……。
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