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I
私の名はグラハム。魔術師であり、英雄サンテガルの従者である。私たちは勝ち目の無い戦いに挑まなければならない。
二千年の眠りから蘇りつつある魔王ラスバーンを封印する。この旅を続けて十五年、ようやく魔王が眠ると言い伝えられる古の遺跡へ辿り着いた。三人の戦士と共に私たちは遺跡の奥へ進んでいる。足を踏み入れてから既に四日が過ぎていた。入り組んだ遺跡の最深部はもはや天の光さえも届かない。松明の灯りだけが頼りの、漆黒が包む異様な場所だった。
時折、遺跡の奥から禍々しい呻き声が聞こえる。魔王の目覚めの声だ。
受け継がれし古文書によるとラスバーンは数千年に一度蘇り、世界を混沌に誘う。魔王を封じ込めるには代償が必要だった。生贄である。その者は命だけではなく、全てを代償として捧げなければならない。
生贄は名乗り出てもなれるものではない。
ラスバーンが選ぶのだ。
どこぞやの幼子に薄らと刻印が浮かぶ。生贄の示しだ。その者は刻印者と呼ばれ、生まれながらにして英雄と称えられる。示しの知らせが教会へ届くと上級魔術師が派遣され、刻印の信憑性を調べ、刻印者が成人を迎える頃に最初の生贄の儀式が行われる。
私はサンテガルの額に浮かぶ刻印を調べた魔術師の1人だった。まだ五つだったサンテガルは小国の王子だった。王族に刻印が出るのは今までに無い事だった。古文書には生贄の位までは説明がなかったからだ。
私はサンテガルの従者となった。多少の魔法を教えはしたが、これから背負う事になる代償には触れなかった。
サンテガルが成人した日、全てを話した。代償の意味を知ったサンテガルは絶望に打ちひしがれ、その場に膝を崩して泣き叫んだ。
「何故だ!? 何故私がこの様な目に遭わなければならないのだ!」
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