II

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古の遺跡に足を踏み入れて五日目が過ぎた。 食料は底を尽き、空気も薄く感じたが禍々しい呻き声は近付いていた。 狩人アッシュは日に日に怖気付く様になった。 「なあ、もう戻らないか? 魔王なんてここにはいないんじゃないのか?」 「逃げたければ逃げるがいい。元から、死にに行くようなものだからな」 重戦士グリーマーはアッシュを足蹴にして失笑した。 リサリーはサンテガルと話し込んでいた。刻印者が二人いる事が何を意味するのか、話し合っていた。 「元々は私が生贄になるべきだったのよ。ラスバーンに私のこの胸の刻印を見せれば、生贄に選ぶはず。そうすれば貴方やそのお友達も、後ろで怖気付いてる人もみんな助かるのよ」 「リサリー。君は私の様な恐ろしい見た目にはなっていない。愛するものを生贄に捧げてはいないんだ。私は体の中からラスバーンを感じる。ヤツは私を選ぶだろう。だから、対峙した時は下がっていてほしい。もう誰も失いたくは無いのだ」 二人はどこか心の中で通じ合っている様子だった。 六日目。 巨大な岩壁に辿り着いた。人が一人、ようやく通れそうな切れ目があり、その先は漆黒が続いていた。 アッシュの足が止まった。 「もうやってられない、もう限界だ。俺は降りるぜ。何が魔王だ、何が英雄だ。馬鹿みたいにこんな息苦しくて蒸し暑い廃墟を歩き回って、どこに辿り着くかもわからない裂け目に入ろうって? 冗談じゃ無い!」 アッシュが来た道を戻ろうとしたその時、突然体が燃え始めた。真っ赤な炎だった。 「なんで? なんだよこれ? おい! 俺に何をした!? 消せよ!!」 アッシュは炎を払おうとしたがますます体に燃え広がっていった。熱さに悶えるアッシュはその場でのたうち回り始めた。 「助けてくれ! 頼む!! 助けて!!」 「これはどう言う事だ!? グラハム!?」 驚いたサンテガルが私に尋ねた。 私にもこの現象が何を意味するのか分からなかったが生贄に捧げられた者たち同様、他者に燃え移らない魔法の炎だった。しかし、アイリーンやリンダ、アーヘンの様な青い炎では無く、赤い炎だった。 「旅の仲間をも生贄にしたというのか?」 築かれた友情が失われたその喪失をラスバーンは生贄として吸収したのかもしれない、と私は考えた。 なおも苦しむアッシュの首をサンテガルが剣で跳ねた。アッシュの首が火玉になって転がり、端に下る深い崖に落ちていった。せめてもの処置なのか魔王への反発なのか、何故サンテガルがアッシュの首を切り落としたのかは分からなかった。 アッシュの身体は灰にならず焼け残った。 強気で冷静だったグリーマーが焼け焦げたアッシュの遺体を見て息を呑んだ。 「俺たちゃ、運命共同体ってやつかい」
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