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桃太郎とおじいさん
「どうしたんじゃ桃太郎。よく眠れなかったのか?」
ある晴れた日のこと、おじいさんは部屋で薬草を作っていました。
「実は昨日少しこわい夢を見てしまって…
それよりおじいさん、今何を作っているのですか?」
「薬を作っておるのじゃ。生活は苦しいが、なんとか生計を立てんといかんからのう。」
おじいさんが薬草をすり潰すと、見る見るうちに粉の様になっていきます。
桃太郎は感心しながらおじいさんの隣に座って、作業を眺めています。
「それより桃太郎よ。さっき、怖い夢を見たと言ったな。」
おじいさんは尚も薬草をすり潰しながら聞きました。
「はい。なんだかこわい夢でした。村が大変な事になる様な…どんな夢かは思い出せないのですが…」
おじいさんは薬草をすり潰す手を止めました…
そしてーーー
「……おじい、さん?」
「……思い出さんでええ。」
おじいさんは一言そう言うと、桃太郎を優しく抱きしめました。
「怖いことは、思い出さんでええんじゃ。
怖いことは、忘れてしまったら、ええんじゃ。」
なんだか…懐かしい感触ーーー
そう思った途端、桃太郎は昨日の夢がとても温かく思えてきました。
とってもこわい夢だったはずなのにーーー
とっても哀しい夢だったはずなのにーーー
おじいさんは僕にとって大切な人でーーー
おじいさんは僕の事を大切に想っているーーー
自分を抱きしめるおじいさんが、今どんな顔(表情)をしているのかは分からないが、
おじいさんから匂う土臭い薬草の臭いが、
とてもいい匂いだと、桃太郎は思いましたとさ。
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