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航太と初めて会ったのは学食。新入生が密集している一角で隣り合わせに座った俺に、『俺、左利きで肘当たるから席入れ替えて』とカツカレーを食べながら声を掛けて来た。
薄い顔、と言うのか取り立てて特徴がない顔面だったけど、スプーンを持つ左手が妙に色っぽかった。男臭い、大きな手だな、と思った。
次に会った大講義室では扇状に配置された席の一番左に陣取っていたから、俺はその一段上の左端に座った。そこからは航太の左手がよく見えた。特等席だ。
以来約二年、俺はそのポジションを死守している。航太本人は何でソコなんだと訝しがったけど、『窓が近いと落ち着く』と言うと納得したようだった。
『トモはゼミ、どこにすんの』
『城ゼミが第一希望』
『学芸員でも目指すんか』
市大建築科はヴォーリズ研究が柱とも言われていて、近江ゼミの人気が高く一番密度が濃い。同じ学部のデザイン科生にも人気の華やかなガウディゼミも割と活発。高層ビルやら橋梁やら、将来に直結するとこもまあ人気。
でも俺は、地味〜に日本の城を深掘りする侘び寂びの効いたゼミに興味津々だった。作りたい模型もあったし。
『トモ、派手なくせに性格はジーサンみたいよな』
『俺、派手か?』
『自覚ねーのか』
笑う航太の口に尖った犬歯。それは左手と同じくらい破壊力があった。普段あまり口を開けて笑わないヤツの犬歯だの八重歯だのは、意外性も相俟って萌えの温床だと知った。
そして春からは俺も航太も城ゼミだ。恒例となっていると伝え聞く『近場の姫路城でお花見親睦会』が今から非常に楽しみだ。
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