act.1 ペニーレイン

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   平日なのでカラオケはまた後日。改札やバスターミナルに向かうメンバーと別れ一人で駐輪場方面に向かうと、地下街から出た途端に雨粒が頬に当たった。  見上げるとビルの向こうの夜空を黒雲が覆いつつあって。本当はたまにしか出番のない航太用のメットや防寒着より、合羽のひとつでも積んどくべきなんよなぁと思う。まあ、そんな事言っても始まらないけど。酷くなる前にさっさと帰って風呂入って寝る。  そしてシートに跨ったところで上着の胸ポケットに入れっぱなしのスマホが震えた。あんまりいいタイミングじゃないけど一応覗いたら航太からのライン………  ん?んん?  グローブを外して履歴を開くと、[鍵ない][落とした][ガッコーに忘れたかも][バイト何時まで?]等々のメッセージが7時から8時の間に10分おきくらいに入っていた。そして今入って来た最新メッセージ。 [まだ帰ってこない?]  慌てて通話ボタンをタップすると直ぐに繋がった。滅多に電話で話したりしない航太の『トモー』の声は鼻声になっていた。 「鍵ないん?今どこ」 『トモんちの前のぞうさん公園ー』 「雨降って来たからエントランスに入ってろ」 『なんでこんな小っちゃいボロマンションがオートロックなん』 「少子高齢化の影響!直ぐ帰るから!暗証番号9◯◯5!」  バイト先からは歩いてでも帰れる。スクーターなら5、6分ほど。  走っているとただの小雨が倍とか数倍の雨粒のように顔に当たって痛いし冷たくて寒い。やっぱ寒い。でもこのくらいの雨が一番スリップし易いから慎重に。  自宅マンションの天井の低い駐輪場に滑り込むと、ワイヤーガラスの向こう側で階段に座っていた航太がエントランスに向かうのが見えた。マジであの薄着は寒々しい。あんな格好でどのくらい外をうろついてたんだ。この数分で冷えた自分を思うと、幾ら『ファッションは我慢』でも苦言を呈したくなるってもんだ。
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