act.1 ペニーレイン

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   航太曰くのボロマンションには引っ越して間もない。  実家も市内なのに一人暮らしに踏み切ったのは、何のことはない、親戚のおっちゃん(不動産屋)に頼まれたからだ。  築年数が俺の年の倍ほど。エントランスは強引も強引にオートロックなのに室内は和風だ。綿壁だ。四階建ゆえかエレベーターもない。  駅は一応徒歩圏内だし元々は新婚さんとか老夫婦で埋まっていたようだけど、線路の騒音問題だとか身体的に階段で上がるのがキツイだとかで上階に空室が増えた結果、2K風呂トイレ別(シャワー無し)が親戚価格の家賃4万円で借りられた。 「二間あってもこっち納戸化しとるぞ」 「ウォークインクローゼット言え。てか勝手に開けんな」 「どこで寝とるん、ベッドは?」 「いや、フツーに布団敷いて寝る……」  ふと思う。  俺、一人暮らし始めたって話はしたけど、具体的な場所……言ったっけ?ぞうさん公園の向かいとか……言ったっけ? 「風呂、今八分目ー」 「! 止めて蓋しといて。オムライスももう出来るから」  居間の炬燵にのそのそと戻る航太をチラ見しつつ、皿に盛ったオムライスにケチャップを掛ける。折角なので『コータ』と書いてみたが、どうにも……どうにも腑に落ちない。
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