act.1 ペニーレイン

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   これら以外にも文房具に並々ならぬ執着がある航太は、当然ながら百均オリジナル文具等には目もくれない。専門的な道具は当然として、消しゴムだろうがメモ帳だろうがその道の一流どころと言われるブランドをこよなく愛している。  学生の分際で贅沢なヤツだとは思うけど、こうして文房具に囲まれ幸せそうな航太を見ていると和む。ものすごーく和む。  ついでに左手で試し書きする所に遭遇したりなんかすると、それはそれはもう、溢れる多幸感で胸がいっぱいになるのだ。 「トモ、5時」 「ぅお」  F駅前ビルのオムライス屋まではやはり10分。スクーターを停めるのと着替えの時間を考えるとギリギリだ。後ろ髪をぐいぐい引かれるが致し方ない。 「ノート、リュックに入る量だけ買うんだぞ。両手いっぱい買うなよ」 「うん。また明日」 「“乗せてくれてありがとう” は」 「“乗せてくれてありがとう” な」  折角遠回りして連れて来てやったのに鸚鵡返しとは……!まったく愛想のないヤツだ。  でも、背中に残った二人乗りの感触が愛おしいから許す。  まったく──────  これが恋じゃないなら何なんだチクショウ。
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