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「まもなく終点、━━━━駅です」   アナウンスの音声に目を覚ます。いつの間にか寝ていたらしい。 「もう降りるよ、麻耶」  そう声を掛け、隣の席へ目をやった。  ━━━━だが。   「……麻耶?」    そこに麻耶の姿はなかった。   「やっぱりね……」  彼女ならここには留まらないんじゃないかと薄々思っていた。  この世にいる霊はみんな苦しそうにしているから。あんな風に笑える人がいるべき場所じゃない。  ふと窓の外に目を向ける。ついさっきまで晴れ渡った青空とその下に広がる山々や田園が一望出来たその窓から見えるのは、ビルが立ちはだかる都会の景色に変わっている。  脳裏に浮かぶのは、窓から身を乗り出してあの風景を見ていた華奢な背中。大袈裟な程に騒いで楽しむあの笑顔。 「……寂しいな」  ポロッと溢れた一言。たった一日しか一緒に過ごしていないのに、礼実の中には大きな喪失感が渦巻いていた。  こうなるのが分かっていたから、引き留めてみたんだけどなぁ。    スマートフォンのカメラロールを開く。当然だが、麻耶が写っている写真など一つもない。  "こうすれば、私のこと忘れないでしょ"。さっき彼女から聞いた言葉が頭の中に木霊する。  こんな物なくたって、アンタのことは絶対忘れないよ。  礼実はその画面に写る、彼女がいたであろう場所を指で撫でる。    もし、麻耶が私の体を乗っ取ることに成功していたら、きっとそれはそれは幸せな人生を歩んだことだろう。  でも、ごめんね。これは私の人生だ。どれだけ惨めであろうが、私自身の力で生き抜いてみせるよ。時間は掛かるだろうし、そんなにすぐには変われないけど、乗り越えてやるから。全部。  だから見ててよ。麻耶。      「終点、━━━━駅……」  電車は緩やかに停車する。扉が開くと、いつの間にか周りに増えていた乗客達が一斉に出ていく。  礼実も歩き出した。真っ直ぐ前を向き、誇らしげに歩くその背中は群衆の中に紛れていった。
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