3人が本棚に入れています
本棚に追加
夜のかねた
「あ、かねたか!起きた」
「兼貴!」
あれ、生きてるよ。
弟と母ちゃんがオレを覗き込む。
「……すき焼きは?」
訊いたオレに、母ちゃんが泣きながらキレた。
横断歩道のオレにバーンとぶち当たったのは、スマホをいじっていた人の自転車で、ドーンと頭を打ったオレは意識を失って救急車で運ばれた。ばぁちゃんは無傷だったそうで一安心。
医者に診てもらい、ベッドに横になる。
「あんたまだ検査しないといけないから、今晩は入院だってよ。お母さん明日また来るから。はぁ……今日は疲れたからお惣菜にしよ」
「えー!すき焼きぃ……」
すき焼きがコロッケになればブーブー言いたくもなるわな。オレが退院したら、春菊椎茸なしで食べようぜ。
疲れて少々老けた母ちゃんと弟が病室を出ようとする。
「あ、ちょい待って」
服のポケットに手を突っ込むが何も入っていない。
ベッドサイドに置いてあった鞄から財布をひっぱりだし、硬貨を親指で弾く。やはり綺麗な弧を描いて飛んでいった。
「お、そうだそうだ。報酬もらい損ねるとこだった」
キャッチした弟は、にっこり笑って帰って行った。
一人になった病室で、あの静かな川を思い出す。
今日の心残りと、失敗と、希望とを。
携帯を取り出す。
「まゆちゃん?バイトおつかれ」
まゆちゃんとデートの相談をしよう。
それから、明日会ったらキスをしよう。
おわりだけどおまけ付き
最初のコメントを投稿しよう!