夜のかねた

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夜のかねた

「あ、かねたか!起きた」 「兼貴!」 あれ、生きてるよ。 弟と母ちゃんがオレを覗き込む。 「……すき焼きは?」 訊いたオレに、母ちゃんが泣きながらキレた。 横断歩道のオレにバーンとぶち当たったのは、スマホをいじっていた人の自転車で、ドーンと頭を打ったオレは意識を失って救急車で運ばれた。ばぁちゃんは無傷だったそうで一安心。 医者に診てもらい、ベッドに横になる。 「あんたまだ検査しないといけないから、今晩は入院だってよ。お母さん明日また来るから。はぁ……今日は疲れたからお惣菜にしよ」 「えー!すき焼きぃ……」 すき焼きがコロッケになればブーブー言いたくもなるわな。オレが退院したら、春菊椎茸なしで食べようぜ。 疲れて少々老けた母ちゃんと弟が病室を出ようとする。 「あ、ちょい待って」 服のポケットに手を突っ込むが何も入っていない。 ベッドサイドに置いてあった鞄から財布をひっぱりだし、硬貨を親指で弾く。やはり綺麗な弧を描いて飛んでいった。 「お、そうだそうだ。報酬もらい損ねるとこだった」 キャッチした弟は、にっこり笑って帰って行った。 一人になった病室で、あの静かな川を思い出す。 今日の心残りと、失敗と、希望とを。 携帯を取り出す。  「まゆちゃん?バイトおつかれ」 まゆちゃんとデートの相談をしよう。 それから、明日会ったらキスをしよう。 おわりだけどおまけ付き
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