冬、君との距離

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「拓海の誕生日って、いつか知ってる?」 「クリスマス、って前に聞いたことあるよ」  どうしようかって迷ってた。  誕生日プレゼントはもう用意してある。  だけど冬休み入っちゃうし、どうやって渡したらいいのか。  というか渡して嫌がられないだろうか。 「デートの後拓海にプレゼント渡しに行く?」 「え?」 「きっと海音ちゃんのことだから誕生日プレゼント用意してるんでしょ」  周に渡したのもきっと知られてるね、アオイくんには。  だってあの八月の日、私は三人に最高のプレゼントを貰ったから、せめてきちんとお返しはしたくて。  ただ加瀬くんに渡すのは迷惑になるのかも、と躊躇してた。 「いいのかな? 加瀬くん忙しくないかな?」  浮かぶのは菜々さんの顔、だってクリスマスだし。  もしかしたら、二人は……。  私の顔が曇ったことに、アオイくんはすぐに察してくれたのか。 「大丈夫、菜々の家はいつもクリスマスは家族で近くの教会に行くんだ、それから家でホームパーティして過ごしてる。お父さんがカトリックだったはず」  だから昔から子供同士のクリスマス会にも菜々は欠席だったんだ、と話してくれた。 「もし海音ちゃん一人の方がいいなら拓海の家まで案内するけど」  う、それは、何だかとっても気まずい気が……。  私の不安は顔にそのままそれは現れてたのだろう。  アオイくんはクスッと笑って。 「ついてくよ、オレもその方が安心だし」 「安心?」 「そ、拓海がまた海音ちゃん好きになったら厄介だもん」 「っ、ないよ、それはない」 「海音ちゃんが忘れられなくなっても困るしね」  そう言って微笑んだアオイくんの手が、私の頬に優しく触れた。   「前にオレが言ったこと覚えてる? 海音ちゃん」  触れたアオイくんの(てのひら)の熱さが私の頬に伝染(うつ)っちゃったみたいに熱くなる。 「オレが海音ちゃんのこと好きだったってこと、拓海がいるなら諦めるって」 「あ、……」  思い出してしまってアオイくんの目を見てられずにテーブルの上に目を落とす。 「撤回しとくね、諦めるの辞めた」 「アオイくんっ、でも、私っ」 「ストップ! 今まだ振られたくないからね、言わないで! 諦めないのは、いつか海音ちゃんが拓海のことを忘れられた時に一番側にいられたら少しはオレに可能性あるんじゃないかなって。なので気長に考えて、無理に好きになってなんて言わないから」  ぎゅううって胸が締め付けられた。  アオイくんの優しさが温かくて。  何でそんなに、って思ったら切なさがこみ上げてきて。  堪えきれなかった涙が零れ落ちてアオイくんの手を濡らしてしまう。 「ごめん、そんな困らせるなんて、」  慌ててるアオイくんに泣きながら首を横に振る。  違う、違うんだよ、あのね。 「ありがと、アオイくん」  危うく続けて「大好きだよ」と言いかけてそれは友達としての意味だけど今言ったなら誤解されるかもと慌てて飲み込んだ。  いつかね、もしも私が他の誰かを好きになるとしたなら。  それはこんな風に一生懸命私の涙を拭ってくれている人なのかも、しれない。
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