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一軒の青い屋根のお家の前でアオイくんは立ち止まった。
アオイくん家から歩いて五分くらいの場所。
ここが加瀬くんのお家なんだ……。
「いい? 海音ちゃん」
インターホン押そうとしているアオイくんに。
「あ、ちょっと待って」
慌ててカバンの中から取り出す小さな包み。
中身は定期入れのようになっている皮のピックケース。
気に入ってくれるかな? 加瀬くん。
というかやはり突然来て迷惑ではないのだろうか。
何しに来たの? と思われたら……。
悪い方へと考えて考えて、心臓がバクバクしてきた。
「……、やっぱり郵送にしようかな」
誤魔化すように笑う私の手をギュッとアオイくんが握ってくれて。
「海音ちゃんが怖いなら、またにしようか?」
再確認してくれる。
怖い、のかな? うん、怖いんだ。
実際クラスが一緒でも話すことなんかほとんどないし。
……一度、ね。
先生が私を呼んでる、って加瀬くんが私に話しかけてきてくれたことがあったんだ。
『先生が提出書類持ってきて、って、……片山さん』
気付かないふりで頷いたけど。
海音、じゃなかった、片山さん、だった。
『わかった』
と笑ったけど、あの時うまく笑えてなかったと思う。
もうこんなにも遠くなってしまったのかって、職員室に向かう廊下でゴシゴシと目を擦って。
あの日のことを思い出すと怖くなっちゃうから。
「アオイくん、頑張れって言ってくれる?」
アオイくんを見上げると困った顔をしていて。
「いいの? オレが頑張れって言っちゃっても?」
「うん、最後だから頑張りたいの。お願いします」
最後だ、きっと。
加瀬くんに関わるのは最後にしよう。
アオイくんの勇気を少しだけ私に貸して、今だけ後押ししてほしい。
そう懇願するように見上げていたら、アオイくんは小さなため息の後で。
私をギュッと抱きしめた。
「頑張れ、海音ちゃん」
背中に回されたアオイくんの手はポンポンと私をあやすように。
必死にそれに頷いて深呼吸した。
「頑張るっ」
そう言うとそっと私を解放してくれたアオイくんは、ゆっくりとインターホンを押した。
『はーい』という女の人の声、お母さんかな。
「アオイです、拓海いますか?」
『あら、アオイくん、ちょっと待ってね、拓海! アオイくんが来てるわよ』
『今行く、待ってて』
拓海くんの声、だ。
それから少しして開いた玄関から顔を出した加瀬くんは。
アオイくんと横にいる私を見てとても驚いた顔をしていた。
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