冬、君との距離

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「どしたん? 二人して」  加瀬くんは、一瞬動揺したように私とアオイくんの顔を見比べていた。  言葉に詰まってしまう私に代わって。 「今日は何の日だ?」  アオイくんがこの場を和ますように明るく笑って、それからチラリと私を見ている。  今だ、行けっ! てこと、よね? 「ハッピーバースディ&メリークリスマスです、加瀬くんっ」  声絶対裏返ったし!!  めちゃくちゃ緊張しながらも必死におどけて、どうぞっと頭を下げて差し出した私のプレゼント。 「……、ありがと」  小さな声が聞こえてハッとして頭を上げると。 「ありがと、覚えててくれて」  加瀬くんが微笑んで受け取ってくれた。   『加瀬くんの誕生日、教えて』  私の誕生日祝いを貰った後で二人の時にそっと尋ねたら。 『内緒、笑うもん』  と照れた顔してて、なかなか教えてくれなくて。  それでも食い下がらなかったら。 『クリスマス、何か覚えやすすぎて言いづらい』 『良かった、だったら絶対忘れない』  そう言って笑う私に微笑んでくれたんだ。 「だって覚えやすいもん」  そう答えると、そうだよねって笑ってる。  いつ以来だろ、こんな風に加瀬くんと面と向かって話してるの。  多分あの学祭の日が最後だったのかもしれない。 「あーめっちゃセンスいい」  包みを開けて定期入れっぽいけれど実はピックケースというのに気付いてくれて。 「大事に使うわ」  もう一度ありがとうって笑ってくれた。  ダメだ、もう胸がいっぱいで、加瀬くんの笑顔をもうまともに見ていられないや。 「じゃ、じゃあ、帰りますっ、バイバイ加瀬くん! あ、アオイくんも、ここで」  バイバイと二人に手を振ってすぐに背中を向けて早歩き。  少しして私を追いかけてくる足跡が聞こえてきて。 「送ってく、海音ちゃん」  それがアオイくんの声で安心した。  だって見せられないこんな顔。  涙でいっぱいの顔なんか見せたらきっと。 『いつまでも引き摺ってるウザイ子』に思われるかもしれないもん。  角を曲がって、また曲がって。  その瞬間抱きしめてくれたアオイくんの胸を借りた。 「頑張ったね、海音ちゃん」  優しいアオイくんの声に緩みまくった涙腺は崩壊しまくって。  全然止まらなくって。  それでもアオイくんはずっとずっと付き合ってくれたんだ。
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